代謝ストレス応答は、がんに特徴的な種々の条件下で機能し、がん細胞の生存や増殖に重要な役割を果たしている。本研究では、ISR (Integrated Stress Response)を中心に、がん化シグナル阻害やグルコース欠乏等に対する活性化機構の多様性の分子基盤を明らかにし、がん特異的な治療法開発に向けての研究展開を図る。今年度は、ISR活性化機構の多様性を分子レベルで理解するための基盤を築くため、引き続き、研究項目1)ならび2)を行うとともに、治療応用へ向け、ISRを標的とした合成致死についての研究項目3)ならびに4)を進めた。研究項目1)では、355のキナーゼ阻害剤の中から、ベムラフェニブによるISR活性化を選択的に阻害するものを見出した。研究項目2)では、グルコース欠乏やグルタミン欠乏に曝した際のトランスクリプトーム・データ等を用い、がん化シグナルとの関連検索を行うとともに、遺伝子発現制御ネットワークの構造を解明する手法の開発に取り組み、発現変動遺伝子間の上流・下流の関係を再構築し、そのネットワーク中でハブとして働く遺伝子を検出するアルゴリズムの開発に成功した。研究項目3)では、これまでの研究成果に基づいて、がん遺伝子BCR-ABLに着目して研究を行った。そして、慢性骨髄性白血病由来のがん細胞においては、BCR-ABL阻害によってISR活性化が抑制され、栄養飢餓などのストレス感受性が増大し、合成致死が誘導されることを見出した。研究項目4)では、項目1)で見出した化合物の中で、ベムラフェニブとの併用によってBRAF変異陽性のメラノーマ細胞に合成致死を誘導するものに焦点を当て、メラノーマを対象疾患として、合成致死作用のBRAF変異陽性株への特異性を確認するなど、抗腫瘍効果の検証実験を実施した。
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