研究課題
平成28年度は申請者が作出したBLIMP1のN末端をEGFPでタグしたノックインマウス(EGFP-BLIMP1マウス)から精製した、雌雄始原生殖細胞(発生12.5日)、胚性小腸上皮(発生16.5日)、周生期網膜視細胞前駆体(生後4日)、成体マウスの脾臓から採取したB細胞をサイトカイン(IL4)とリポ多糖(LPS)によって刺激して得た形質芽球、およびこのノックンマウスから作出したES細胞から誘導した初期の始原生殖細胞様細胞(primordial germ cell-like cells; PGCLC)について、微量ChIP-seq法を用いてEGFP-BLIMP1のゲノムワイドな結合部位について高精度なデータを得た。これらは三胚葉それぞれぞれに由来する体細胞系列および、生殖細胞系列という、最も広い発生レンジにまたがっており、単一の転写因子による発生制御に関して最も普遍的な比較解析を可能にすると考えられる。これを詳細に解析した結果、BLIMP1の結合部位はどの細胞系譜においても遺伝子の往路モーター近傍に最も濃縮しており、かつそれらの結合部位は細胞種間で広く共有されていることが明らかになった。これらの「細胞種間で共有された」結合部位ではBLIMP1は強く結合し、かつ先行研究によって同定されてきた認識DNA配列がよく保持されていた。ところが、意外なことに、正常な発生過程やBlimp1欠損胚の遺伝子発現と比較すると、細胞種間で共有された結合部位はほとんど遺伝子発現制御に寄与しないことが明らかとなった。一方で、細胞種特異的な結合部位は比較的プロモーターから離れた位置に存在し、結合は弱く、認識DNA配列の保存性も低かった。ところが、どの細胞種においてもこのような特異的結合部位が遺伝子発現制御に良く寄与していた。
2: おおむね順調に進展している
予定していたすべての細胞種についてBLIMP1結合部位を決定し、かつ遺伝子発現動態のプロファイルを得ることができた。これらのデータをもとに多様な細胞種におけるゲノムワイドな転写抑制機構に関して重要な知見を得て論文投稿中である。
現在投稿中の論文の掲載に向けて全力を尽くす。とくに関連細胞種における他の転写因子やヒストン修飾に関する定性的比較が重要であると考えられる。また、各種ヒストン修飾について、同一の抗体を用いた分布動態を解析し、BLIMP1が如何にして結合部位を選択しているのか、またそこでどのようなエピゲノム制御を行っているのかについてよりmechanisticな解析を行いたい。とくにポリコームやヒストン脱アセチル化酵素のリクルートが提唱されているが、それが細胞種を通じた普遍的な機構なのか、どの細胞種でも同じようなキネティクスで制御されているのかは興味深い。
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巻: 17 ページ: 2789-2804
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