研究課題/領域番号 |
16H04723
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
南嶋 洋司 群馬大学, 大学院医学系研究科, 教授 (20593966)
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研究分担者 |
菱木 貴子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (10338022)
久保 亜紀子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (50455573)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 低酸素 / 代謝 / 水酸化 / プロリン / HIF / PHD / HIF-PH / 阻害薬 |
研究実績の概要 |
利用出来る酸素が少ない環境(低酸素環境)に直面したときの生体の防御反応(低酸素応答)は、(頸動脈小体における呼吸調節や、肺・脳における血管の拡張/収縮のような秒単位・分単位での応答反応を除くと)主に転写因子HIFによって制御されているが、そのHIFも自身のα-サブユニット(HIFα)の特定のプロリン残基がプロリン水酸化酵素PHD (α-ケトグルタル酸依存的dioxygenase)によって水酸化されることで蛋白分解へと導かれる。すなわち、HIFを介した低酸素応答はプロリン残基の水酸化によって制御されていると言える。 このPHDの他にも、我々の身体の細胞内には酸素添加酵素 (oxygenase)が多数存在する。これらの酵素は、それぞれ酸素に対するKm値にこそ差はあるものの、酸素濃度が低下すると酵素活性が低下するのだが、これは即ち、PHDだけに限らず、これらの酸素添加酵素 (oxygenase) の何れもが“低酸素センサー”として機能していると言うことができる。 代表的な低酸素センサーであるPHDを阻害すると、転写因子HIF依存的低酸素応答の活性化が観察されるが、申請者の予備実験の結果、よく知られている「PHD-HIF依存的な低酸素応答」以外に、「PHD依存的だがHIF非依存的な低酸素応答」や、ヒストン脱メチル化酵素KDM、DNA脱メチル化酵素TETなどの酸素添加酵素 (oxygenase)のように「PHD非依存的な低酸素応答」が、細胞内エネルギー代謝制御において重要な役割を果たしていることが明らかとなりつつある。 今まではPHD-HIFで全て説明されてきた感のある低酸素応答の分子メカニズムではあったものの、本研究では、“HIF依存的/非依存的を問わず、低酸素に対する応答反応の全貌を、低酸素による細胞内の水酸化反応”に焦点を合わせて解き明かすことを目標としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度までに、正常酸素濃度環境下では水酸化されるが低酸素環境下では水酸化されない蛋白の探索(水酸化プロテオミクス)を行ってきた。具体的には、正常酸素濃度下および低酸素環境下で培養した細胞からトリプシン消化ペプチド断片を質量分析器で計測し、prolineやlysine残基などのように、水酸化修飾に伴い両群間で質量電荷比(m/z)が水酸化修飾を受けたアミノ酸の数×16(=酸素原子のm/z)だけ変化したペプチド断片を、質量分析器を用いて同定することで、低酸素によって水酸化修飾が変化する蛋白、すなわち新たな低酸素センサー分子の同定を試みた。 ところが、本計画で当初標的としていた、正常酸素濃度環境下において酸素添加酵素によって酵素学的に水酸化されるアミノ酸(プロリンなど)以外に、サンプル調製中に非酵素学的に(人工的に)水酸化されてしまうアミノ酸(メチオニンなど)が網羅的定量を妨げてしまうことが判明した。そのため、サンプル調製中のメチオニンの水酸化を予防する定量系や、あるいは逆に事前に酸素濃度に関係無く全てのメチオニンを水酸化させてしまうことでメチオニンの水酸化の有無を測定系から除外してしまう定量系を樹立し、ようやく予定していた水酸化ペプチドおよび水酸化代謝産物の網羅的定量を開始することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに予想外の事態に対するトラブルシューティングが終了したので、当初の計画通り、水酸化ペプチドおよび水酸化代謝産物の網羅的定量を行う。 また、HIF-PH阻害薬のような2-オキソグルタル酸(α-ケトグルタル酸)依存的水酸化酵素阻害剤が腎性貧血の治療薬として承認されて入手可能になったため、水酸化酵素阻害薬処理した細胞から抽出したペプチド・代謝産物などを非水酸化ペプチド・代謝産物のコントロール(ネガティヴ・コントロール)として利用する予定である。 然る後に、低酸素応答の全貌を、水酸化プロテオーム/メタボローム解析すなわち”ヒドロキシオーム (hydroxyome)”によって定量評価できる系を樹立する。
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