研究課題
脊椎動物型視物質オプシンをもつ視細胞を包含し、脳から派生して形成される光受容器は、ホヤと脊椎動物の共通の形質である。ホヤの光受容器は単純な眼点であるのに対し、脊椎動物の眼は多様で特殊化した細胞から構成される精緻で複雑な器官である。光受容器の複雑さの獲得過程とその制御機構の解明を目指し、ホヤと脊椎動物のそれぞれについて、光受容器の発生の制御機構に関する解析を行った。ホヤにおいては、受精卵を起点とする眼点の細胞系譜の詳細な解析、眼点特異的な遺伝子発現制御機構の解析、眼点の発生を制御する転写因子の解析を行った。脊椎動物においては、メダカを用い、視細胞の多様性を制御する因子の候補として研究代表者らが同定したmiRNAの機能を解析した。ホヤ胚の脳原基の特定の細胞核をレーザー光照射によって蛍光標識し、発生運命を追跡する手法を開発し、眼点視細胞の細胞系譜が従来の推定とは全く異なることを明らかにした。得られた結果について論文を発表し、ホヤと脊椎動物の共通祖先において、神経堤と神経管のコラボレーションという脊椎動物の頭部形成に重要な組織間相互作用の萌芽がみられることを指摘した。一方、脊椎動物ではCRISPR-Cas9法によるゲノム編集を駆使して、網膜特異的miRNAや視細胞特異的転写に関わるシス制御領域を欠損させたメダカ系統を作製し、次世代シークエンサーを用いて網膜のトランスクリプトーム解析を進めた。まだ解析途中であるが、これまでにmiRNA欠損メダカの網膜で、mRNA量が有意に上昇または減少する遺伝子が多数見出されている。光受容器以外の器官についても、ホヤと脊椎動物の相同性に注目し、脳特異的小分子RNA結合タンパク質の解析、中枢神経系の形成と神経回路の構築、GnRH神経系の比較解析、ヘッジホッグ遺伝子の発現制御機構の解析などを進めた。
2: おおむね順調に進展している
ホヤ幼生の中枢神経系の細胞系譜に関して、完全解明につながることが期待できる手法を開発し、それを用いて光受容器の発生および進化について新しい知見を得て論文を発表したことは大きな成果である。各組織・器官のトランスクリプトーム解析は進行中であり、まとまった結果を得るまでにいたってないが、網膜特異的miRNAのノックアウト系統のトランスクリプトームの解析結果が得られつつあり、網膜細胞の多様性形成について新しい知見が得られることが期待できる。
胚組織・器官や遺伝子機能を操作した胚・幼生についてのトランスクリプトーム解析を進めるとともに、脳領域・感覚器の発生への関与が推定される細胞間シグナル分子・受容体、転写因子について、ノックダウン実験やゲノム編集法によるノックアウト、薬剤による機能阻害、野生型および変異体の強制発現などの実験を行い、表現型を解析する。マイクロRNAをはじめとするノンコーディングRNAについても、個体レベルの機能解析と標的分子の同定を進める。また、ホヤの感覚器官と神経系について、確立した手法を駆使して、細胞系譜の高精度の解析をさらに進める。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 9件、 招待講演 3件) 図書 (1件)
Developmental Biology
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比較内分泌学
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