研究課題/領域番号 |
16H04728
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
原 孝彦 公益財団法人東京都医学総合研究所, 生体分子先端研究分野, 分野長 (80280949)
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研究分担者 |
北島 健二 公益財団法人東京都医学総合研究所, 生体分子先端研究分野, 主席研究員 (10346132)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / iPS細胞 / 転写因子 / 造血発生 |
研究実績の概要 |
ヒトiPS細胞株SM28から分化誘導した造血性血管内皮細胞hemogenic endothelial cell(HEC)にLhx2を過剰発現させると、血液細胞分化が完全にシャットアウトされる。この応答は、Lhx2によってHSCが体外増幅されるマウスES/iPS細胞株と正反対であった。そこで核内移行シグナル付きのEGFPにLhx2の部分配列を組み入れた各種のEGFP-Lhx2融合タンパク質発現レトロウイルスコンストラクトを作出して、ヒトiPS細胞の血液細胞分化抑制に関わるLhx2の責任領域を探索した。その結果、C末端側のLIMドメインがヒトiPS細胞の血液細胞分化を抑制していることが判明した。このLIMドメインを不活性させる変異を導入すると、分化抑制は解除された。しかし、このLhx2-LIM変異体をヒトiPS細胞由来のHECに過剰発現させても、造血前駆細胞のin vitro増幅は観察されなかった。以上の結果は、ヒトiPS細胞由来のHEC にはHSC増幅に必須なLhx2 cofactorが存在していないことを示唆する。
ヒトiPS細胞由来のHECにHSC分化能が備わっていない場合、足りないfactorを遺伝子導入する以外に、in vitro分化誘導系にHSC発生の微小環境因子を補ってみる方法がある。そこで、胎生11.5日マウス胚から大動脈を含む領域を分離し、大動脈血管内部にHECをマイクロポンプで微量注入した後に器官培養する新しい方法の構築を試みた。CD45.2マウスの大動脈血管にCD45.1マウスの骨髄細胞を移入して3日間培養したところ、ドナー由来の血液細胞がin vitro増幅された。本法を用いれば、遺伝子操作なしにHECからHSCを分化誘導できる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究では、1)Lhx2のC末端側LIMドメインがヒトiPS細胞の血液細胞分化を抑制していること、2)Lhx2のLIMドメイン変異体を用いても、ヒトiPS細胞からHSCを分化誘導できないことを見出した。そして、別のアプローチとして、3)HSC発生の場を再現するポテンシャルを持つマウスAGM領域の器官培養系を新たに構築した。
本研究のゴールであるヒトiPS細胞からHSCを作り出す技術の開発には成功していないが、ヒトiPS細胞のin vitro分化誘導系でLhx2を働かせるようにするための研究は着実に進展している。それに加えて、遺伝子操作なしにiPS細胞からHSCを分化誘導する器官培養系にも一定の目処が立った。
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今後の研究の推進方策 |
Lhx2のC末端側LIMドメインの変異体では、ヒトiPS細胞の血液細胞分化抑制はおこらなかった。そこで、このLhx2-LIM変異体存在下で、ヒト造血前駆細胞を体外増幅するエピゲノム阻害剤を再スクリーニングする。候補阻害剤をヒトiPS細胞由来のHEC(Lhx2変異体導入)に添加し、HSCが分化誘導されるかどうか調べる。さらに、ヒト造血前駆細胞の増幅効果を示したエピゲノム阻害剤の処理によって発現亢進する遺伝子、あるいはマウスES細胞由来HSCのLhx2結合タンパク質の中から、Lhx2 cofactorを探す。それらを、Lhx2変異体と組み合わせてヒトiPS細胞由来のHECに過剰発現させる実験も実施する。
上記のアプローチと並行して、マウスAGM領域の器官培養系を用いて、マウスES細胞由来のHECから長期骨髄再建性のHSCが分化誘導されるかどうかについて解析する。その結果が有望ならば、本法をヒトiPS細胞由来のHECにも適用してみる。
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