研究実績の概要 |
Lhx2のLIM2ドメインに点変異を導入すると、ヒトiPS細胞の血液細胞分化抑制活性とヒト白血病細胞株K562の増殖抑制活性が共に消失することを見つけた。このLIM2変異体は、マウスES細胞由来の造血幹細胞(HSC)を体外増幅する活性も喪失していた。そこで、K562細胞を用いてLhx2によって発現抑制されるがLIM2変異体では発現変動しないHSC発生関連遺伝子を探索した。その結果、GFI1B, KLF1, NFE2を含む9種類の転写制御因子のmRNA発現レベルが、2~10倍以上異なっていた。これが、ヒトiPS細胞でLhx2によるHSC様細胞の体外増幅が起こらない理由ではないかと推察される。
上記の研究と並行して、FLAG-Lhx2レトロウイルスベクターを用いてマウスES細胞由来HSC様細胞を体外増幅し、FLAG抗体を用いてLhx2と共免疫沈降するタンパク質を探索した。その結果、Lhx2と特異的に結合することが知られているLdb1に加え、複数のDNA複製制御タンパク質がLhx2と結合することを発見した。この結果は、Lhx2がDNA複製因子をリクルートすることでHSC様細胞の細胞周期回転を促進している可能性を示唆している。
最後に、マウスAGM領域血管の微小環境を模倣するマイクロデバイスを共同開発した。そこにOP9ストロマ細胞とマウスES細胞由来の中胚葉細胞を撒いて、胎仔心拍に相当する3.8Hzで24時間伸展刺激したところ、血液細胞の出現頻度が約4倍増加した。これは、過去に報告されている送液培養法より効率が高かった。本法は、Lhx2のような外来遺伝子を使わずにヒトiPS細胞からHSCを体外増幅するのに役立つ可能性がある。
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