研究課題
がんにおける最大の問題点は、「がん幹細胞」における治療抵抗性である。しかしがん幹細胞は“超少数”の細胞群であり、その性質はほとんど明らかになっていない。近年、われわれは次世代型プロテオミクス技術であるiMPAQT法を考案し、数万に及ぶ全てのタンパク質の絶対定量を可能にするシステムを構築した(特許第5468073号)。本研究課題では、1細胞レベルの解像度でiMPAQTシステムを稼働させる「シングルセルiMPAQT」を開発し、それによってがん幹細胞内部の全代謝酵素を絶対定量し、数理科学的手法を用いてネットワークとしての変化の総体(がん幹細胞シグニチャー)の解明を目指す。1)がん幹細胞標識システムの構築: がん幹細胞の研究領域においては、がん幹細胞をいかに純化するかが大きな問題になっている。現行法のほとんどは表面抗原マーカーを用いて純化するものであるが、それが果たしてがん幹細胞のみを集めてきているのかは不明である。そこでわれわれが発見した本格的な幹細胞機能マーカーであるp57を利用することにした。p57が発現する細胞でGFPおよびhCD8が発現するような白血病モデルマウスを構築した。2)がん幹細胞単離・プロセスシステムの開発: 少数細胞でのプロテオーム解析は試料調製過程のタンパク質の損失が大きな問題である。そこでキャピラリーなどの微小空間でタンパク質抽出、酵素消化、固相への保持を行う系を構築した。3) iMPAQT法の高感度化: iMPAQT法の高感度化を図るために、キャピラリーの微小化やイオン源の密閉化、吸着抑制のための添加剤の検討を行い、2-5倍程度の高感度化を達成した。
2: おおむね順調に進展している
研究計画通りにH28年度において, がん幹細胞を回収するためのマウスモデル作成、微量試料調製法の確立、およびiMPAQTの好感度化、いずれに関しても当初予定していた通り進行している。さらに、より高感度な質量分析を実施するために、酵素消化法の最適化や、タンパク質試料のin-line (キャピラリー内)消化法なども開発しており、これらの要素技術を組み合わせることで、今後より高感度なシステムを構築する予定である。このように、現在のところ、研究計画に沿った実験とその関連研究を順調に展開しており、今後も特に大きな技術的問題等は生じないと思われる。
今後は、以下の項目に沿って研究を行う。1)H28年度構築したがん幹細胞標識系を用いて、実際にがん幹細胞を回収し、プロテオーム解析が可能かどうかを検証する。細胞あたりのタンパク質量が少ない場合など十分な解析ができない可能性も想定されるので、その時点でのプロテオーム解析技術の感度を勘案しつつ必要細胞数を見積もる。2)H28年度開発した微量試料調製法をより効率に実施するためのデバイス開発を行う。当初、マイクロ流路デバイスの開発を計画していたが、H28年度の検証結果から石英ガラス内ではタンパク質吸着が少ないことが判明したので、石英を用いたデバイスの開発等も併せて検討する。3)プロテオーム解析に加えて、さまざまなオミクス階層の計測をがん幹細胞に対して実行する。核酸階層に関してはすでに1細解析技術が発展しているため、これらを利用して実施する。メタボローム解析に関しては現時点では感度的に実現性は低いことから、高感度化に取り組むと共に、質量顕微鏡の利用も検証する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 1件、 査読あり 11件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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