研究実績の概要 |
抗がん剤は一部の治療抵抗性の細胞群に対しては無力で、結果的に再発・転移につながる。近年の研究から、これら治療抵抗性の細胞は「がん幹細胞」であることが次第に明らかになってきた。がん細胞が特殊な代謝状態にあることは90年前から知られているが、がん幹細胞の代謝システムがどのような状態にあるのかという研究はほとんどなく、大きな謎として残されている。最大の障壁は、がん幹細胞が全がん細胞の1万分の1以下の“超少数”の細胞群であることで、現行のプロテオミクス技術では、がん幹細胞のタンパク質情報を得ることはほぼ不可能である。 本研究課題では、1細胞レベルの解像度で定量的なプロテオミクスを実施する要素技術の確立し、それによってがん幹細胞内部の全代謝酵素を絶対定量し、数理科学的手法を用いてネットワークとしての変化の総体(がん幹細胞シグニチャー)をダイナミックに捉えることによって、創薬標的となる分子の発見を行うための基礎理論の開発を目指す。 これまで、1)我々が独自に同定したがん幹細胞特異的なマーカーであるp57を用いてがん幹細胞を濃縮する技術、2)次世代型の定量プロテオミクスであるiMPAQT法の技術の確立および汎用化 (Matsumoto M. Nature Methods, 2017, Matsumoto M. and Nakayama K.I. Curr. Opin. Biotechnol. 2018)、3)マウスタンパク質へのiMAPQT法の適用、さらに、4)これらの技術を用いたがん細胞における代謝酵素シグニチャの同定に成功した。また、本研究を通して、がんにおける悪性度と密接に関連する重要代謝酵素を同定し、それが重要な治療標的になる得ることを見出した。
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