研究課題
代謝酵素複合体(メタボロン)とは、細胞内において代謝生合成経路を構成する酵素群が集合することで形成される巨大な酵素複合体である。このメタボロン形成によって、代謝反応を担う各酵素間で、基質と生成物が円滑に受け渡されることにより、代謝中間体が細胞質中に拡散することなく、低濃度の基質・酵素存在下においても代謝反応が効率良く進行すると考えられている(基質チャネリング効果)。本研究では、植物バイオマス分解酵素複合体(セルロソーム)の骨格タンパク質―酵素間相互作用を利用して、人工的な代謝酵素複合体(人工メタボロン)を試験管内・細胞内において構築し、メタボロン形成効果と基質チャネリング効果の解析を行うことを目的とした。平成28年度は、微生物由来色素化合物の生合成系をモデルとして、植物バイオマス分解酵素複合体の骨格タンパク質を用いて、大腸菌内において人工代謝酵素複合体(人工メタボロン)の細胞内形成を行い、メタボロン形成効果の評価アッセイ系の構築を行った。放線菌ファージ由来インテグラーゼを用いて、大腸菌ゲノムへ生合成酵素遺伝子群の導入を行い、複合体骨格遺伝子を導入した細胞と、導入していない細胞の生合成産物の合成量の比から、メタボロン形成効果を評価した。その結果、植物バイオマス分解酵素複合体の骨格タンパク質を用いて生合成酵素を複合体化した場合、複合体化していない場合と比較して、色素化合物の生合成量が増加する結果を得た。ゲノム上への遺伝子導入は、プラスミドへの遺伝子導入よりも、長鎖のDNAが導入可能であるため、生合成遺伝子数の多い生合成系への適用が可能になると期待される。
2: おおむね順調に進展している
微生物由来色素化合物の生合成系をモデルとして、植物バイオマス分解酵素複合体の骨格タンパク質を用いて、大腸菌内において人工メタボロンの細胞内形成を行った。生合成酵素を複合体化した場合、複合体化していない場合と比較して、色素化合物の生合成量が増加する結果を得た。この系は、次年度以降、試験管内において人工メタボロンを形成し、生合成量の改善効果を解析してゆく対象となるため、研究はおおむね順調に進展していると言える。
大腸菌細胞内において確認した人工メタボロン形成による生合成量の改善効果を解析するため、試験管内での人工メタボロン形成を行う。試験管内において、生合成酵素群を複合体化した場合と、複合体化していない場合の生合成産物の合成速度の比から、メタボロン形成効果を評価する。また、植物由来抗腫瘍活性物質を対象に、大腸菌細胞内における人工メタボロン形成を行い、色素化合物の生合成系を対象に確認した、酵素複合体化による生合成量の改善効果が生じるか検討する。
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Scientific Reports
巻: 6 ページ: 35709
doi:10.1038/srep35709
http://ch.ce.nihon-u.ac.jp/~hirano/index.html