研究課題
PCNAは真核生物の複製の進行から複製後染色体の構築まで必須のはたらきを持つ。PCNAをDNAに装着するローダー型複合体には必須のRFCに加えて必須でないCtf18-RFC とElg1-RFCが存在する。複製時のPCNA装着はRFCによって高頻度でラギング鎖に装着され、リーディング鎖へは能動的に装着されないと考えられてきた。Ctf18-RFCはリーディング鎖DNAポリメラーゼPolεと複合体になってPCNAローダーとして機能する。この点に着目してこの複合体がリーディング鎖DNAへのPCNAの能動的装着を行うことを考えた。またElg1-RFCはPCNA脱着活性も過剰なPCNAの除去を行うと考えた。本研究ではこれらの機能に着目し、複製後の両新生DNA間の協調的なPCNA配置機構を明らかにすることを目的とする。まずCtf18-RFC/Polε複合体のPCNA 装着活性、DNA合成様式を詳細に解析した。これよりこの複合体は安定したリーディング鎖合成を継続でき、リーディング鎖DNAへのPCNAの能動的装着できることを示すことができた。そこで複製時のPCNAの能動的装着を再現するために、複製フォークでヘリカーゼとして機能するヒトCMG複合体の発現系を作成し、活性型複合体が得られた。そこでこれを使ってDNAポリメラーゼホロ複合体CMG/Polε/Ctf18-RFCの再構築を行い、リーディング鎖合成過程でPCNAが装着される反応の再現を試みている。またヒトElg1-RFCのPCNA脱着反応の再構築を行い、その活性制御に関わる要素を解析し複製後DNAで適正なPCNAの配置が行われる機構の解析を進めている。以上の生化学的な解析に加えて、HeLa細胞で、CRISPR-Cas9を使ってヒトCHTF18とPolε結合性を持たないC末欠損変異型FLAG-CHTF18の発現細胞の作成を進めている。
2: おおむね順調に進展している
昨年の成果であるCtf18-RFC/Polε複合体の活性の解析を発展させるため、CMGヘリカーゼの再構築を行い、活性型複合体を生成できた。しかし精製量がCMG/Ctf18-RFC/Polεホロ複合体の再構築には不十分であるため、発現、精製法の改善を行っている。これら再構築過程のローダー複合体とPolεを使い、PCNAアプタマーの解析を共同研究で行った。この過程で、使用したPCNAアプタマーがPCNA/Polε複合体に特異的に作用してそのDNA合成を強く阻害することを明らかにでき、その成果がNARに受理された。複製後DNAでの適正なPCNAの配置に重要な脱着機構に注目し、Elg1-RFCのPCNA脱着反応の再構築を行った。その結果、その脱着反応にはElg1-RFCに加えて細胞由来の付加的な因子が要求されることが示され、その解析を進めている
1.リーディング鎖合成過程でのPCNAの装着を再現するために、CMG/Polε/Ctf18-RFC型フォーク複合体でPCNA装着過程を再現することを目指す。そこでこの複合体の再構築に必要なDNAヘリカーゼCMG複合体の調製法の最適化を試みる。方法として発現プラスミドの改良、DNA導入の最適化、精製用ペプチドタグの変更を検討している。2.リーディング鎖の再現を簡便な反応系で実現することを目指して、プライマーを配置したssDNAを鋳型としてPolεのDNA合成とCtf18-RFCのPCNA装着を連動させることを試みる。ビーズに固定した鋳型DNAを用いることであらかじめ因子を集合させ、余分な因子を除去後一斉に反応を開始させる系を試みる。経時的にDNA合成とPCNA装着を定量し、両者に連動性があるかどうかを解析する。比較対象にCtf18-RFC に結合しないPolδを使うことでPolε/Ctf18-RFC複合体が能動的にPCNAを装着しているか検討する。3.Elg1-RFCが過剰なPCNAの除去を行い複製後DNAの適正なPCNAの配置を行う機構を検証する。そのためにヒトElg1-RFCを精製しPCNA脱着反応を再構築する。すでに単独では脱着の効率が低く、アフリカツメガエルの卵抽出液の添加により促進されることがわかっている。そこで卵抽出液の基質DNAあるいは精製Elg1-RFCを前処理することでその活性化に関わる要素を同定する。これにより複製後DNAでPCNAを配置ためのElg1-RFCの関与を検討する。4.昨年から引き続きヒトHeLa細胞を使って、ゲノム編集でFLAGタグ付きヒトCHTF18とPolε結合性を持たないC末欠損変異型FLAG-CHTF18の発現細胞の作成を進める。得られたらこの細胞を使ってCHIP法によるCHTF18の染色体上の挙動の解析系を確立する。
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