研究課題
最近、代表者らは細胞のクロマチンが従来考えられてきたような、いわば結晶のように規則正しく折り畳まれた階層構造ではなく、液体のように不規則で流動的な構造であることを明らかにした。それでは、この流動的な環境において、ヘテロクロマチン領域はどのようなメカニズムでクロマチンを不活化しているのであろうか?代表者らは、ヘテロクロマチンは個々のヌクレオソームのダイナミクス(動態)の抑制によって規定されているという仮説を立てた。本研究では、仮説を検証するため、ヌクレオソーム1分子イメージングによってヘテロクロマチンのヌクレオソーム動態を解明する。そしてクロマチン不活化のメカニズムをヌクレオソーム動態の実験・理論の両面から明らかにすることを目的としている。本年度はヘテロクロマチンの動態解明のため、以下の2つの項目について研究をおこなった。ヘテロクロマチン領域のヌクレオソーム動態の解析―ヘテロクロマチンにおいて、ヌクレオソームのリンカーDNAをつなぎ止めるクリップの役割をしていると考えられているリンカーヒストンH1を蛍光ラベルし、H1に富んだヌクレオソームの1分子解析をおこなった。ヘテロクロマチン領域のヌクレオソーム動態制御に関与する因子の同定―核内膜直下のヘテロクロマチンについては、核膜の裏打ちタンパク質LaminA/CやLBRなどのヘテロクロマチン形成に対する関与が示唆されている。これらの核内膜タンパク質を体系的にノックダウンし、ヌクレオソームの動きを解析した。
1: 当初の計画以上に進展している
計画通りのH1-ヌクレオソームの1分子イメージング実験、データ解析を遂行することができ、有意義な結果を得ることができた。また本年度までの結果を論文発表することが出来た(Nozaki et al. Mol. Cell, 2017)。さらに米国ウッズホール海洋生物学研究所Shribak博士らが開発したOI-DIC顕微鏡を用いて、生細胞内の密度イメージングに成功し、ヘテロクロマチンの密度定量をおこなった。その結果、ヘテロクロマチンの密度(208 mg/mL) はユークロマチン(136 mg/mL)のわずか1.53倍であることが明らかになった。この成果は、米国細胞生物学会MBoC誌に「ハイライト」として掲載された。
計画は順調に進んでいる。来年度 理研・高橋恒一らと共同でモンテカルロ計算機シミュレーションを組み合わせ、測定値に基づくクロマチン環境を再現する。高橋らと代表者はヌクレオソームの濃度・動きを再現するシステムを既に構築しているため、この方法をさらに改良し、どのくらいの大きさのタンパク質が、どのくらいのヌクレオソームの動きによって、クロマチンにアクセスできるようになるのか?を詳細に解析する。そして、ヘテロクロマチンにおいて、抑制されたヌクレオソームの動きがタンパク質のクロマチンへのアクセシビリティに与える影響を明らかにする。また、リンカーヒストン・HP1・ヒストンメチル化酵素を過剰発現させ、ヌクレオソーム動態と遺伝子発現が低下するかを確認する。技術的な困難はない。
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