研究課題
本研究の最終目標は、細胞内カルシウムイオンが組織特異的に制御される機構を原子構造に基づいて理解することである。小胞体に存在し、細胞の生存と機能に必須なカルシウムイオンポンプであるSERCAがその中心的役割を担うが、骨格筋由来のSERCA1a以外の機能・構造解析はあまり進んでいないのが現状である。そこで、組織分布・生化学的性質の異なるサブタイプである、SERCA2a、SERCA2b、SERCA3の機能解析・立体構造解析を通じ、SERCA1aと比較することで、組織特異的な細胞内カルシウムイオン制御機構の理解へ向けた研究を目指した。SERCA2bの結晶構造解析に関しては、結晶が十分大きく成長するようになったこともあり、複数の結晶からのデータのマージにより、フルデータの取得も可能になった。その結果、一応の構造も得ることができているが、まだ分解能に難がある。反応機構の詳細な理解のためには、よりいっそうの分解能の向上が望まれるので、今後も引き続き解析を進めるとともに、分解能の向上を目指す予定である。SERCA3の6種のスプライシングバリアントについては全ての変異アデノウィルスの作成・発現・精製に一応成功しているものの、まだ発現量に難があり、機能解析等の研究に着手できてはいない。今後の研究の推進へ向け、より多くの精製評品を得ることができるよう、発現量の向上を試みる予定である。大量精製に成功したならば、結晶化にも取り組む予定である。
3: やや遅れている
平成29年9月、ウィルスの大量精製・タンパク質の大量生産の過程において、当初の予想に反し精製効率が悪く、結晶化に必要となる十分量の精製評品を得ることができない事態が生じた。そのため、発現タンパク質の大量精製系の検討を行い、ウィルスの大量精製・タンパク質の大量生産をやり直す必要が生じた。現在は正常に動いているが、以上の作業のために6ヶ月を要し、そのために実験遂行に多少の遅れが生じた。そのために、研究遂行にやや遅れが生じたが、平成30年度に行った繰越研究により挽回することができた。
これまでに引き続き、SERCA2bの大量生産・精製を行う。既に得ている結晶の質の改善を試みるとともに、高輝度放射光SPring-8等の実験施設を利用し、X線回折データを収集し、構造精密化を行う。成果を論文としてまとめることが当面の目標である。SERCA3の各スプライシングバリアントを発現するアデノウィルスに関しては、発現量の向上を目指す。発現量が向上したならば、各スプライシングバリアントの大量生産・精製を恒常的に行う体制を整える。十分量の精製標品が得られたならば、各キネティックス実験に取り組むとともに、究極の目標である結晶化にも取り組む。
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Bioorg Med Chem Lett.
巻: 28 ページ: 298-301
10.1016/j.bmcl.2017.12.050