研究課題
パーキンソン病は国内だけでも約15万人もの患者がいる、進行性の神経変性疾患である。ニューロンの変性によって神経伝達物質ドーパミンが減少し、安静時の手足のふるえ、歩行障害、動作緩慢などの運動障害に加え、様々な全身症状や精神症状が起こる。パーキンソン病には複数のタイプがあり、発症要因の1つとして不良ミトコンドリアの蓄積が報告されている。損傷したミトコンドリアの蓄積は細胞の変性を引き起こすため、機能低下したミトコンドリアはマイトファジーによって選択的に分解される。このミトコンドリアの分解シグナルは、家族性パーキンソン病の原因遺伝子産物であるユビキチンキナーゼPINK1とユビキチンリガーゼParkinによる、ユビキチンのリン酸化とポリユビキチン化であることが明らかになっている。一方、ミトコンドリアに局在する脱ユビキチン化酵素USP30は、ミトコンドリア外膜上のユビキチン鎖を切断してマイトファジーを抑制する。また、USP30は8種類存在するユビキチン鎖のうち、Lys6結合型ユビキチン鎖を優先的に切断するが、USP30によるLys6結合型ユビキチン鎖切断のメカニズムは解明されていない。本研究ではPINK1による基質のリン酸化機構、USP30のユビキチン鎖切断メカニズムの解明を目的として、PINK1およびUSP30をその基質との複合体として結晶構造を決定する。昨年度の研究成果として、USP30とLys6結合型ユビキチン鎖の複合体の結晶構造を決定し、USP30が8種類あるユビキチン鎖のうち、Lys6結合型ユビキチン鎖のみを特異的に切断するメカニズムを明らかとした。また、PINK1単体の結晶構造を決定した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の研究計画よりも早く、USP30とLys6結合型ユビキチン鎖の複合体の結晶構造解析、USP30によるユビキチン鎖切断の速度論的解析、PINK1単体の結晶構造解析に成功したため。
USP30については、USP30ノックアウト細胞にユビキチン鎖切断活性を減弱させたUSP30を入れ戻し、変異USP30によるマイトファジーへの影響を調べる。必要な実験データがすべて得られたら、論文にまとめ、科学雑誌に投稿する。PINK1については、得られた結晶構造から、PINK1表面のUbが結合すると予測される残基に変異を導入し、この変異体PINK1によるUbリン酸化活性を測定し、正確なUb認識部位を明らかにする。必要な実験データが得られたら、論文にまとめ、科学雑誌に投稿する。
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Scientific Reports
巻: 7 ページ: 42123
10.1038/srep42123
巻: 7 ページ: 40909
10.1038/srep40909
巻: 6 ページ: 33548
10.1038/srep33548