研究課題/領域番号 |
16H04750
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 裕介 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (50568061)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | X線結晶構造解析 / ユビキチン / ミトコンドリア / パーキンソン病 |
研究実績の概要 |
パーキンソン病の発症要因の1つとして不良ミトコンドリアの蓄積が報告されている。この不良ミトコンドリアは、ユビキチンのリン酸化とポリユビキチン化を引き金としてマイトファジーで分解される。一方、ミトコンドリアに局在する脱ユビキチン化酵素USP30はミトコンドリア外膜上のユビキチン鎖を切断してマイトファジーを抑制する。また、USP30は8種類存在するユビキチン鎖のうち、Lys6結合型ユビキチン鎖を優先的に切断する。本研究では、USP30とLys6結合型ジユビキチン複合体の結晶構造解析を行った。 昨年度の研究として、USP30のミトコンドリア上のユビキチン鎖に対する活性測定を行った。実験は主に2つ実施した。1つめの実験として、ミトコンドリアの膜電位に影響を与える薬剤CCCPで細胞を処理して不良ミトコンドリアを作り、ミトコンドリア外膜上にユビキチン鎖を合成した。つづいて、細胞内から不良ミトコンドリアを精製し、USP30と不良ミトコンドリアを反応させた。その後、USP30で処理した不良ミトコンドリア上のユビキチン鎖の量を質量分析計で、ユビキチン鎖の結合様式ごとに定量した。2つ目の実験として、内在性のUSP30ノックアウトした細胞に野生型もしくは変異体USP30を過剰発現させた。この細胞をCCCPで処理して不良ミトコンドリアを作成した。その後、精製した不良ミトコンドリア上のユビキチン鎖の量を質量分析計で、ユビキチン鎖の結合様式ごとに定量した。質量分析計を用いた実験は、東京都医学総合研究所の田中啓二所長らのグループとの共同研究で行った。これらの研究により、USP30は試験管内での活性と同様のメカニズムで、ミトコンドリア上のユビキチン鎖を切断している事が明らかになった。以上の結果はNature Structural & Molecular Biologyに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画よりも早く、USP30とLys6結合型ユビキチン鎖の複合体の結晶構造解析、USP30によるユビキチン鎖切断の速度論的解析、USP30による細胞内でのユビキチン鎖切断活性の測定、PINK1単体の結晶構造解析に成功したため。
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今後の研究の推進方策 |
USP30については、昨年度に計画していた全ての実験が完了し、その結果がNature Structural & Molecular Biologyに掲載された。一方、PINK1単体の結晶構造解析結果についても、計画していた実験が完了しその結果をまとめて論文投稿し、現在査読中である。 計画していた全ての実験が完了したため、本年度はUSP30やPINK1以外のユビキチン関連タンパク質の構造解析を行う。ユビキチンに選択的な分子シャペロンCdc48のコファクターであるNpl4が近年、Lys48結合型ポリユビキチン鎖に特異的に結合することが報告された。そこで、Npl4とLys48結合型ポリユビキチン鎖との複合体の結晶構造解析を行い、Npl4によるLys48結合型ポリユビキチン鎖特異的結合メカニズムを明らかにする。また、Npl4は、同じくCdc48のコファクターであるUfd1と強く結合することが知られているため、Npl4とUfd1との複合体の結晶構造解析を行い、Cdc48-Npl4-Ufd1三者複合体の結合モデルを構築する。結晶構造が得られたら、結合に関与する残基に変異を導入し、変異によるNpl4とLys48結合型ポリユビキチン鎖、およびNpl4とUfd1の結合の強さの変化を測定する。
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