ヒト由来因子によって再構成した試験管内翻訳システムの大量反応系を用いて、クライオ電子顕微鏡を用いた立体構造解析のための試料を調製した。ヒトリボソームとHCV IRESのハイジャック後複合体について、3.9Åの分解能で構造決定した。また、ヒトリボソームとHCV IRESのハイジャック前複合体についても、3.9Åの分解能で立体構造を決定した。蛍光顕微鏡による一分子観察によって、確かにHCV IRESが翻訳中の80Sリボソームに結合していることを確認した。さらに生化学的な実験により、HCV IRESは空のリボソームよりも、翻訳中のリボソームの方がより効率よく下流の翻訳を誘導できることを明らかにした。これらの結果によりHCV IRESの宿主翻訳系のハイジャックシステムが明らかになり、Molecular Cell誌に報告した。 HCV IRESによる翻訳開始と競合して翻訳開始に機能する翻訳開始因子eIF4Aについて、翻訳阻害剤RocAと連続プリン配列、ATPアナログの4者複合体の結晶構造解析に成功し、生化学的・計算科学的な結果と合わせてMolecular Cell誌に報告した。 HCV IRESによる翻訳開始と競合して翻訳開始に機能する翻訳開始因子eIF2とeIF2Bについて、これらの複合体の立体構造をeIF2のリン酸化のある場合とない場合の両方について決定した。eIF2はリン酸化の有無に応じてeIF2Bとの結合様式を生産的あるいは非生産的結合という大きく異なる2つの形に変化させることが明らかになった。リン酸化eIF2のリン酸化セリンはeIF2内部のアルギニン、リジン、アスパラギン酸と静電的相互作用をすることで、C末端側のアルギニンに富む正に帯電したループを突き出す構造を取り、非生産的結合が可能になることを明らかにした。この結果をScience誌に報告した。
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