研究実績の概要 |
高等動物から原核生物に至るまで、生体膜内外のプロトン濃度勾配(プロトン駆動力)は、生命活動を担う重要なエネルギー源になる。このエネルギーを使って、ATP合成、栄養素や合成した蛋白質の輸送、薬剤の取り込みや排出、運動の駆動等が実現される。細菌では、同じファミリーに属する膜蛋白質がいろいろな生命活動にプロトン駆動力を供給しているが、その構造情報は不足していた。本課題では、このうち鉄輸送に関わるExbBD等の電子線及びX線結晶構造解析と電子線単粒子解析を進めている。これにより、いろいろなイオン環境下における構造やコンフォメーションの変化を高い空間分解能で捉える他、イオン通路等の機能部位の荷電状態を精密解析する。以上から、この膜蛋白質ファミリーに共通するイオン駆動力の利用、機能発現に繋がる分子機構の詳細を明らかにすることを目指している。 X線結晶構造解析により、ExbBの2.8Å分解能での構造決定に成功した。さらに単粒子解析からExbB/ExbD複合体の構造を明らかにし、pHの変化に伴いサブユニットの数が変化し、これがチャネル活性に大きな影響を及ぼすことを明らかにした(Maki-Yonekura et al., eLife, 2018)。これは、膜タンパク質がダイナミックに構造を変化させることで活性化する新しい作動機構と考えられる。また、電子線三次元結晶構造解析や単粒子解析による荷電状態の精密解析の基礎データとなるが、これまで参照データが存在しなかった水素、炭素、窒素、リン、硫黄のイオン散乱因子を相対論的量子化学計算により決定した(Yonekura et al., IUCrJ, 2018)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
X線結晶構造解析からExbBの6量体のリング状構造を決定し、クライオ電子顕微鏡の単粒子解析からExbDの3量体がExbBの6量体に取り囲まれた状態で存在していることが分かった。単粒子解析ではExbBの5量体とExbDの単量体からなる構造も得られた他、5量体はイオン透過活性が低下する低いpHで多く形成され、逆に、6量体は活性が上昇する高いpHで多くなることが明らかになった。さらに、脂質膜中でタンパク質が並んだ2次元の結晶を作製し画像解析したところ、より生理的な環境に近い状態においても5量体と6量体の両者が含まれることも分かった。また、陽イオン透過を計測するなど種々の解析を行った結果、この二つの構造が相互に変換することが示され、機能発現の際にこの形態変化が実際に起こっていること強く示唆する結果が得られた(Maki-Yonekura et al., eLife, 2018)。これは、膜タンパク質がダイナミックに構造を変化させることで活性化する新しい作動機構と考えられる。活性化状態の構造では、ExbDはExbBの6量体のリング内に非対称に配置し、周りのExbBは隣のサブユニットに対して生体膜に垂直に少しずつずれた、らせん状に配置する。この構造から、水素イオン流が渦を巻くことで回転力が生じ、ExbDの3量体がリング内を回転運動する力学的エネルギーに変換され、化学物質や栄養素の輸送が実現されるという作動機構のモデルを提案した(Maki-Yonekura et al., eLife, 2018)。 電荷分布の解析に関しては、水素、炭素、窒素、リン、硫黄のイオン散乱因子を相対論的量子化学計算により決定し、電子線結晶構造解析、クライオ電子顕微鏡の単粒子解析の構造精密化で利用可能なようにモデル化した(Yonekura et al., IUCrJ, 2018)。
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