研究課題
Csm複合体は5種類のCasタンパク質(Csm1~Csm5)とcrRNAから、Cmr複合体は6種類のCasタンパク質(Cmr1~Cmr6)とcrRNAから構成されている。両者はcrRNAのガイド鎖と相補的なRNAを切断するとともに、転写と共役して外来DNAを切断する。これまでに、Cmr複合体の結晶構造を決定し、Cmr4で保存されたAsp残基がRNA加水分解反応における触媒残基の一つ(酸触媒)であることを特定した。本研究では、RNA加水分解反応機構の解明を目的に塩基触媒の同定を目指した。Cmr複合体の結晶構造において、加水分解されるリン酸結合はCmr4とCmr5の近傍に配置されていた。しかしながら、Cmr4のAsp残基以外に保存されたアミノ酸残基を確認することができなかった。そこで、加水分解されるリン酸結合の周辺に存在する親水性アミノ酸残基をそれぞれAlaに置換した変異体Cmr4および変異体Cmr5を作製した。変異型Cmr複合体を再構成しRNA切断活性を測定した。その結果、いずれの変異型Cmr複合体もRNA切断活性を保持しており、これらのアミノ酸残基が触媒反応には関与しないことが明らかになった。Cmr5はCsm複合体を構成するCsm2の構造と類似する。Csm複合体のモデル構造を構築し、それに基づいて標的RNAと相互作用すると推定されたCsm2のアミノ酸残基にも変異を導入した。変異型Csm複合体のRNA加水分解活性を検討した結果、いずれの変異型Csm複合体もRNA分解活性を保持しており、Cmr5と同様にCsm2も触媒には関与しないことが示唆された。以上より、RNA加水分解反応における塩基触媒はなお不明であるが、Cmr5やCsm2は触媒反応には直接的に関与せず、III型エフェクター複合体の構造形成や活性型構造の維持に重要であることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
触媒残基の特定には至っていないが、Cmr5やCsm2がIII型エフェクター複合体の活性型構造形成に重要であることを明らかにし、また、Csm複合体のモデル構造を作成して今後の研究に資する構造情報が得られたため。
III型エフェクター複合体の構造機能解析を引き続き進め、III型エフェクター複合体が形成するしくみや標的核酸を切断し遺伝子の発現を抑制するしくみを解明する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Nucleic Acids Res.
巻: 46 ページ: 1565-1583
10.1093/nar/gky068.
Biochem. Biophys. Res. Commun.
巻: 494 ページ: 736-741
10.1016/j.bbrc.2017.08.143