研究課題
平成28年度には「プログラム細胞貪食を誘導する情報伝達経路の解明」及び「プログラム細胞貪食のウイルス感染症の防止における役割」について、キイロショウジョウバエをモデル動物として使い研究を進めた。第一の課題では、経路の解明に成功し、その成果を論文として国際誌に掲載した(野中ら、J. Biol. Chem. 2017年3月21日にオンライン出版)。貪食誘導経路は、哺乳類や線虫と同じく、部分的に重複する二通りの経路であった。すなわち、Draperを受容体としてその下流にCed-6→Rac1/Rac2と続く経路、及びインテグリンalphaPS3/betanuを受容体としてCrk/Mbc→Rac1/Rac2と続く経路、を同定することができた。これらの情報伝達因子は哺乳類と線虫でも基本構造を共有することから、線虫・昆虫・哺乳類で貪食誘導経路は共通であることが示された。これは、プログラム細胞貪食が進化的に保存された仕組みで実行されることを示唆する。この研究の過程で“アポトーシス細胞を貪食した食細胞では遺伝子発現変化を介して食活性が高まる”ことが見いだされた。これは、発生初期の標的細胞との接触が食細胞を活性してその後の機能発揮を確実にする仕組みと考えられ、研究代表者らはこの現象を“食細胞のプライミング機構”と位置づけた。この成果も、上記の論文として報告された。第二の課題では、ウイルス感染によって宿主細胞にアポトーシスが誘導される仕組みについて解析を加えた。ショウジョウバエでは3種のキャスペース活性化タンパク質Reaper, Hid, Grimの働きでアポトーシスが誘導される。このうちHidをコードする遺伝子の転写プロモーターの活性がウイルス感染によって高まることが示された。
2: おおむね順調に進展している
二つの大きな目的のひとつを初年度に達成することができ、その成果を国際誌に掲載された論文として報告した。さらに、当初は想定していなかった“食細胞のプライミング機構”という現象を見いだすことができ、本研究課題の重要性が拡大された。もう一つの課題については、完了には至っていないものの、それをめざすためのきっかけを手にすることができた。
1. プログラム細胞貪食における食細胞のプライミング機構の解明昨年度に実施した研究において、要除去自己細胞と接した食細胞では遺伝子発現様式が変化し、その結果として貪食活性が高まることがわかった。この現象は食細胞が後に出会う要除去自己細胞を確実に貪食除去するためだと解釈されることから、研究代表者はこれを“食細胞のプライミング機構”と位置づけた。食細胞における遺伝子発現様式の変化を担う転写因子としてTaillessが同定されており、今年度の研究ではTaillessが貪食にかかわる遺伝子群の発現を直接に変化させるのか、あるいは他の転写因子を介して間接的にそれを行うのかを明らかにする。前者が正しいならば、Taillessによって発現の高まる遺伝子群を同定する。後者が正しいとなれば、Taillessが発現誘導する転写因子を見いだす。2. プログラム細胞貪食の疾病防止における役割の解明キャスペース活性化タンパク質Hidの役割に注目して、ウイルス感染によって宿主細胞にアポトーシスが誘導される仕組みを解明する。その後に、ウイルス感染細胞が要除去自己細胞となりうるかどうかを検証する。一方、研究代表者が以前に確立したショウジョウバエに癌を誘導する実験システムを利用して、癌化細胞が食細胞の標的となりうるかどうかを検証する。陽性の答えが得られれば、癌細胞の貪食除去が発癌防止に寄与するかどうかを調べる。
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Journal of Biological Chemistry
巻: - ページ: -
doi:10.1074/jbc.M116.769745