研究課題
平成29年度では28年度に引き続き、「プログラム細胞貪食を誘導する情報伝達経路の解明」及び「プログラム細胞貪食のウイルス感染症の防止における役割」について、ショウジョウバエをモデル動物として使い研究を進めた。さらに、「プログラム細胞貪食の発癌防止における役割」の課題を開始した。「プログラム細胞貪食を誘導する情報伝達経路の解明」では、28年度までの研究で見いだした“アポトーシス細胞を貪食した食細胞では遺伝子発現変化を介して食活性が高まる”という「食細胞のプライミング機構」の仕組み解明に取り組んだ。この現象にはTaillessとよばれる転写因子が必要とされ、これが貪食受容体のDraperとalphaPS3の発現増大を引き起こす。しかし、Taillessは転写抑制因子であるため、DraperとalphaPS3をコードする遺伝子の転写を直接的に促進することはできない。そこで、Taillessの下流で働く転写因子を探索した。その結果、Kruppelという転写抑制因子が候補にあがった。「プログラム細胞貪食のウイルス感染症の防止における役割」の課題では、ウイルス感染によって宿主細胞にアポトーシスが誘導される仕組みについてさらなる解析を加えた。その結果、3種類存在するアポトーシス誘導因子のうちHidとよばれるタンパク質の発現がウイルス感染後に遺伝子転写レベルで促進されることがわかった。その仕組みとして、ウイルス感染によるHid遺伝子のクロマチン構造の変化の可能性が考えられた。「プログラム細胞貪食の発癌防止における役割」では、ショウジョウバエ発癌モデルの開発に成功した。
2: おおむね順調に進展している
28年度までの研究で得られた成果について、2つの総説を発表することができた(Nainu et al., Front. Immunol. 8:1220; Nonaka et al., Biol. Pharm. Bull. 40:1819)。さらに、これらの成果の基盤となる実験手法についても発表した(Nonaka et al., J. Vis. Exp. 126:e56362)。また、2つの課題のどちらについても、完了に近づくための新たな知見を得ることができた。
本課題の最終年度であることを踏まえ、以下のように研究を進めて完了を導く。1. プログラム細胞貪食における食細胞のプライミング機構の解明:「食細胞のプライミング」の仕組みとして、“アポトーシス細胞貪食→Taillessの活性化→Kruppel発現の抑制→貪食受容体遺伝子の転写促進→貪食活性の増大”という経路を証明する。そのために、Kruppelの関与を実証するとともに、Tailless活性化の実体を明らかにする。2. プログラム細胞貪食の疾病防止における役割の解明:「ウイルス感染細胞のアポトーシス誘導」の仕組みとして、“ウイルス感染→Hidをコードする遺伝子のクロマチン構造の変化→Hidの発現増大”という経路を証明する。そのために、Hid遺伝子のクロマチン構造変化に関わる因子を同定する。その後に、ウイルス感染がその因子にどのような影響を与えるかを明らかにする。3. プログラム細胞貪食の発癌防止における役割の検証:ショウジョウバエ発癌モデルを利用して、プログラム細胞貪食を阻害した時の癌の発生と進展の変化を調べ、細胞貪食が癌の防止に寄与するかどうかを結論する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件)
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