研究課題/領域番号 |
16H04767
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
井ノ口 仁一 東北医科薬科大学, 薬学部, 教授 (70131810)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ガングリオシド / 慢性炎症 / TLR4 / GM3 / 筋分化 |
研究実績の概要 |
我々は、メタボリックシンドローム患者の血清中GM3値が上昇すること、さらに、GM3分子種をLC-MS/MSで網羅的に調べたところ、GM3のセラミド部分のアシル鎖2位(α位)の水酸基付加体(d18:1-OH24:0やd18:1-OH24:1など)が選択的に増加し、インスリン抵抗性やメタボリックリスクファクターとの強い相関性を見出している [Veillon et al., PLosOne 2015]。現在までに、以下の結果を得ている。① これらGM3分子種のマクロファージの活性化に対する構造活性相関を検討したところ、長鎖および不飽和アシル鎖 GM3 は単球・マクロファージ上の TLR4 の活性化を抑制し、反対に、極長鎖 GM3 は TLR4 の活性化を強く促進する。 ②メタボリックシンドローム患者の血清中およびマウス脂肪組織において、GM3 のアシル鎖構造の構成比が、炎症惹起性の極長鎖 G M3 へと顕著に偏る。 ③ 脂肪細胞で発現する GM3 分子種は、肥満で生じる炎症性サイトカイン刺激と低酸素ストレスによって大きく変化する。これらの知見から、肥満時のストレスが GM3 の分子種を変化させ、自然免疫系細胞の活性化を促進することで、慢性炎症疾患が進行すると予想される。 筋分化とガングリオシドの生理的意義につての新知見を得た(Go et al., J. Biol Chem. 2017)。マウス筋芽細胞C2C12細胞の分化過程におけるスフィンゴ糖脂質を解析したところ、GM3のセラミドアシル鎖部分の構造は分化前には炭素数24のものが主要であったが、分化に伴い炭素数16のものが増加した。つまり筋細胞は、同じGM3であっても、そのセラミド構造および糖鎖中のシアル酸の構造を変化させることで、その性質を変え、筋分化を適切に、繊細に制御していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肥満時のストレスが GM3 の分子種を変化させ、自然免疫系細胞の活性化を促進することで、慢性炎症疾患が進行すると予想される。我々は。脂肪細胞のTNF刺激によってGM3が増加することを見出している。今回。炎症性サイトカイン刺激に加えて、脂肪細胞を低酸素ストレス条件下に処置することでも、著しいガングリオシドの増加を認めた。従って、脂肪細胞で発現する GM3 分子種は、肥満で生じる炎症性サイトカイン刺激と低酸素ストレスによって大きく変化し、インスリン抵抗性およびTLR4を介した慢性炎症に深く関与していることが強く示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
我々は、極長鎖飽和アシル鎖をセラミド構造中に有するGM3分子種が、メタボリックシンドローム患者血清で増加しており、TLR4受容体の内因性リガンドとしてGM3分子種が機能することを世界に先駆けて見出した。一方、短鎖アシル鎖長または不飽和化GM3分子種は、抗炎症性GM3としてTLR4活性化を抑制することが判明した。そこで我々は、「メタボリックシンドロームなどの慢性炎症性疾患では、炎症惹起性GM3分子種の発現優位によって炎症増悪ループが形成され、自然免疫活性化、さらにはアレルギー性喘息、自己免疫疾患などの発症要因となる」というブレークスルーを目指す。また、医学部附属病院の多くの診療科(糖尿病代謝内科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、血液・リウマチ科、腎臓内分泌科、消化器外科、泌尿器科、総合診療科、臨床検査部)と連携し、慢性炎症状態が発症原因になっている様々な病態の患者血清中の炎症促進性GM3分子種及び炎症抑制性GM3分子種を網羅的にLC-MS/MS解析することで、新規バイオマーカーの開発を実施中である。
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