研究課題
銅イオンは様々な酵素の活性中心として機能するものの、遊離(水和した)状態での銅イオンは活性酸素を触媒的に産生し、細胞に対して毒性を発揮することがある。つまり、銅イオンが細胞内に過剰に存在したり、欠乏したりすると、細胞が正常に生育できないことから、細胞内の銅イオン濃度は厳密に制御される必要がある。本研究で着目する大腸菌においても、酸素呼吸に関わるcytochrome boや、CueOと呼ばれるフェノール酸化酵素が銅イオンを活性中心として結合することで機能しており、さらに、細胞質における余剰の銅イオンを細胞外へと排出するCusシステムも備わっている。しかし、大腸菌においては、細胞内への銅イオンの取り込みや、各種の銅含有酵素への銅イオンの運搬など、細胞内における銅イオンの動態を制御するシステムの全貌は未だ明らかとなっていない。そこで本研究では、3,985種類の遺伝子を系統的にノックアウトした大腸菌変異株のコレクションを用いることで、培養液中の銅イオン濃度の変動に応答する遺伝子の同定を試みた。具体的には、銅イオン(CuSO4)、あるいは、銅イオン特異的なキレート剤であるBCS(Bathocuproine disulfonate)を培養液に添加することで、増殖が亢進・抑制される大腸菌変異株のスクリーニングを試みた。まず、大腸菌野生株の増殖に対するCuSO4、及び、BCSの影響を評価したところ、BCSは10 mMまで添加しても大腸菌の増殖に影響を及ぼさなかったのに対して、CuSO4は10 mMまで濃度を上げると増殖が抑制されることが分かった。そこで、10 mMのBCS、あるいは、1 mMのCuSO4が存在する培養条件において大腸菌変異株を振盪培養したところ、大腸菌の増殖度合いに再現性を確認することが難しかったものの、増殖に変化が見られる変異株を同定することができた。
2: おおむね順調に進展している
本課題では、生体が金属イオンの質的・量的な恒常性を維持するための戦略を知ることで、初年度には、大腸菌などをモデルとして生体内にて機能する銅タンパク質を網羅的に探索する計画であった。実際に、研究実績の概要に記したように、培地中の銅イオン濃度の変動に応答する遺伝子群を特定することができた。よって、本計画は概ね順調に進展していると考えられ、特定することができた遺伝子群の役割などを今後精査していく予定である。
外部の銅イオン濃度変動に対して、量的な恒常性の維持に関与する遺伝子を特定することができたことを発展させて、一つの大腸菌内に含まれる銅イオン数を定量し、量的恒常性が破綻する様子をより定量的に理解する計画である。また、現在までに同定することができた遺伝子群について、出芽酵母やヒトのホモログがないかを調査し、それらが銅イオン濃度の量的恒常性の維持に関わるメカニズムを明らかにする予定である。
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