研究課題/領域番号 |
16H04774
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小嶋 誠司 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (70420362)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 細菌べん毛 / FlhF / FlhG |
研究実績の概要 |
細菌は運動器官のべん毛を適切な本数および位置に構築することで、効率良い遊泳を可能としている。ビブリオ菌極べん毛の本数はGTPaseであるFlhFが正に、ATPaseであるFlhGが負に制御しており、その活性は細胞の極で発現している。本研究では、FlhFとFlhGのGTP/ATP加水分解サイクルと細胞内局在変化・べん毛本数制御活性の関係を、適切な変異体を用いた生化学・結晶構造解析・1分子蛍光観察により明らかにし、極べん毛が正確に1本だけ形成される仕組みを解明することを目標としている。本年度は、1) FlhFとFlhGのヌクレオチド結合スキームと生化学活性の関係、2) FlhFの極局在機構、3) HubPのべん毛本数制御への関与、の3つの点について研究を進めた。1)については、まずこれまで困難であったFlhFの精製に取り組み、少量培養の系ではGTPとMgCl2の存在下でクマシー染色にてほぼ単一バンドになる程度の精製度と量の表品を得ることができた。まだ大量培養の系では成功していないが、GTPase活性測定には十分な量を準備できる目処が立った。2)については、flhF遺伝子全長においてランダムに変異を導入し、極に局在できなくなった変異体の単離を行った。この変異体は無べん毛で、GTPの塩基部分との作用が予測される部位に変異が同定された。このことから、GTP結合とFlhFの極局在に関係があると考えられる。3)については、HubPの欠失株を作成したところ、他の菌種とは異なりべん毛本数が増加し、FlhGの極局在が完全に失われていた。予想と異なり、この株の極に存在するFlhFの量は野生型と変わらないため、HubPはFlhGを極につなぎとめ、FlhFを直接阻害するモデルを立てた。HubPの研究成果は論文にまとめて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では大きく分けて3つの課題(1. FlhFとFlhGのヌクレオチド結合スキームと構造、2. FlhFとFlhGの生化学活性の制御機構、3. 細胞極におけるFlhFの機能発現機構)を掲げている。総合的に見て、まずまずの達成度と考えている。1)と2)については、FlhFの精製系を立ち上げGTPase活性を測定することを最初の目標とし、少量培養の系では、クマシー染色で単一バンドになる程度の精製度と量を得ることができるようになった。GTPase活性の測定や二量体形成能などの構造測定まであと一歩である。FlhGに関してはATPase活性の測定は確立しているが、非常に不安定で凝集しやすいために、ヌクレオチド結合実験ができていない。最近NaClの濃度を変化させることでFlhGの凝集を抑えられそうな結果を得つつあり、成功すれば生化学解析に道が開ける。3)については、共同研究先の谷口博士の研究室にて、細胞極に存在するFlhFの分子数測定実験を行い、データを取得した。現在慎重に解析を進めている。また、極にFlhFがどのように局在するのかについて、FlhF全長へのランダム変異導入解析から、FlhFのGTPase活性またはFlhFとGTPの結合が重要であることを示唆する結果を得ることができた。さらに、細胞極に局在するHubPが、他の菌種とは異なりべん毛本数制御に関与していることを示唆する結果を得た。これは予想外であり、近縁種のコレラ菌とも結果が異なるため、FlhF/FlhGによるべん毛本数制御はかなり多様なものであることが考えられる。HubPは大きな膜タンパク質で精製が困難であるが、GFP融合タンパク質を染色体から発現させることに成功し、その挙動を追うことができるようになった。FlhFとFlhGに関しても染色体からGFPやVenusの融合タンパク質として発現させることに成功しており、挙動の解析が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
FlhFとFlhGのホモログのFtsYとMinDにおいては、精製と生化学活性測定および立体構造決定にすでに成功している。我々もFlhFとFlhGが安定かつ高い純度で精製できる実験系を早急に確立し、そのヌクレオチド加水分解活性や結合スキームの解析に進みたい。お互いに活性を制御する可能性や立体構造の決定にも力を入れる。一方でHubP欠失株の解析から、FlhGはどうやら極からFlhFを解離させるのではなく、極において直接べん毛形成促進能を阻害していることが示唆された。そこで本年度確立した蛍光タンパク質融合株を用いて、FlhFとFlhG、そしてHubPの細胞周期における挙動を注意深く観察し、活性を持つFlhFがどのように極で制御されているのかを、生化学的解析の結果と合わせて明らかにしたい。また、FlhFが極でどのようにべん毛形成を促進しているのかはまだ明らかではない。近縁種のコレラ菌では、べん毛基部体タンパク質FliFの極への集合を促進すると考えられているが詳細は不明である。そこでこの可能性を検討し、またFlhGはどの素過程において阻害するのかも明らかにしたい。一方、同じビブリオ属でも、V. vulnificusではFapAという別の因子がべん毛の位置決定に関係することが昨年報告された。FapAは我々が対象にしているV. alginolyticusには存在しないため、極べん毛形成機構は非常に多様であることが考えられる。FapAを研究している韓国のグループとも議論しながら、今後はFlhFとFlhGが細胞極でどのような因子と相互作用し、べん毛形成を促進(阻害)しているのかを明らかにしたい。
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