研究課題
本年度は QM/MM RWFE-SCF 法と MD 法を用いて、以下の研究を行った。F1-ATPase の ATP 加水分解反応に対するアロステリック効果の分子機構:前年度に引き続き QM/MM RWFE-SCF 法を用いてリン酸結合部位でのリン酸結合状態及びリン酸脱離状態の二つの状態における ATP 加水分解反応の始状態の自由エネルギー構造最適化を行った。Rhの光活性化中間状態:前年度までに行った BSI 及び Lumi 中間状態の構造モデリング及び分光学量の計算に関して、結果を解析し論文に発表した(Kamiya and Hayashi, J. Phys. Chem. B, 2017)。LOV ドメインの光活性化機構:FMN リガンド分子の異なるプロトン化状態に対して、暗状態の QM/MM RWFE-SCF 自由エネルギー構造最適化計算を行った。その結果、光吸収によりリガンド分子と付加体を形成するシステイン側鎖は、暗状態において既に FMN 分子のπ電子と顕著な相互作用を形成していることを見出した。HIVプロテアーゼの触媒活性:天然基質ペプチド分子の結合状態に対して、触媒活性に関わる二つのカルボン酸の異なるプロトン化状態の MD シミュレーション系を構築し、平衡化計算を行った。その結果、安定な基質分子結合構造を与えるカルボン酸のプロトン化状態を明らかにした。それに基づき、QM/MM 系を構築し、QM/MM RWFE-SCF 自由エネルギー構造最適化計算を開始した。Lysozyme の pKa 計算:触媒活性に重要となるカルボン酸の pKa を、QM/MM RWFE-SCF 自由エネルギー最適化構造に対する Bennett acceptance ratio 自由エネルギー摂動計算により求めた。
2: おおむね順調に進展している
F1-ATPase に関しては、自由エネルギー構造最適化が収束の兆しを見せており、またγサブユニットの顕著な回転や ATP 加水分解反応部位の構造変化など、化学-力学エネルギー変換に重要となる現象の観測に成功している。Rh に関しても、G タンパク質の活性化に繋がるリガンド分子の構造変化の中間状態を捉えることに成功しており、その高効率な活性化機構を明らかにできた。LOV ドメインに関しては、準備の計算が終了すると共に、これまでの計算では見えなかった暗状態でのシステイン側鎖と発色団分子の相互作用を明らかにした。HIV プロテアーゼに関しても、準備の計算が終了し、QM/MM 自由エネルギー最適化計算が行えるようになった。Lysozyme の pKa 計算では、Glu35 の pKa が非常に精度良く求まると共に、プロトン化に伴う大きな側鎖の構造変化を明らかにすることに成功した。
F1-ATPase に関しては、QM/MM RWFE-SCF 計算を続行し、自由エネルギー最適化構造を得る。最適化構造が得られたら、その解析を行うと共に、反応遷移状態に関する計算を開始する。LOV ドメインに関しては、光活性化状態であるシステイン側鎖と発色団分子の付加複合体に対する QM/MM RWFE-SCF 計算を行い、自由エネルギー最適化構造を得る。最近の FTIR 実験によると、付加複合体形成直後に Ja ヘリックスの構造変化が得られることが知られており、そのような構造変化が観測できれば、その分子機構に関して解析を行う。HIV プロテアーゼに関しては、反応の始状態と遷移状態に近い中間状態の自由エネルギー構造最適化を行うことにより、反応機構を明らかにする。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件)
Journal of Physical Chemistry B
巻: 121 ページ: 3842-3852
10.1021/acs.jpcb.6b13050
Journal of Biological Chemistry
巻: 291 ページ: 12223-12232
10.1074/jbc.M116.719815