研究課題/領域番号 |
16H04776
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 重彦 京都大学, 理学研究科, 教授 (70402758)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 酵素反応 / 分子シミュレーション / 分子モーター / 光受容体 / QM/MM 法 |
研究実績の概要 |
F1-ATPase の ATP 加水分解反応に対するアロステリック効果の分子機構 QM/MM RWFE-SCF 法を用いてリン酸結合部位でのリン酸結合状態及び脱離状態の二つの状態における ATP 加水分解反応の始状態の自由エネルギー構造最適化を行った。リン酸脱離状態に関しては、自由エネルギー構造最適化が完了した。その最適化構造を出発点として、以前の研究で得られた反応遷移状態の基質分子構造に基づき、反応遷移状態の自由エネルギー構造最適化計算を開始した。また、リン酸結合状態では、γサブユニットの顕著な二次構造の崩壊が観測されたため、新たに γサブユニットを回転させた初期構造を用いた MD シミュレーションによるモデリングを開始した。
LOV ドメインの光活性化機構 プロトン化状態の異なる FMN リガンド分子を有する系に関して、暗状態及びシステイン側鎖と付加体を形成した光活性化状態の QM/MM RWFE-SCF 自由エネルギー構造最適化計算及び最適化構造に対する長時間 MD シミュレーションを行った。その結果、暗状態に関しては、自由エネルギー構造最適化が収束し、その後の長時間 MD シミュレーションにおいても安定な構造を保つことが示された。一方、光活性化状態では、自由エネルギー構造最適化が収束した後の長時間 MD シミュレーションにて、大きな構造変化が観測された。
HIVプロテアーゼの触媒活性 基質ペプチド分子の反応始状態及び中間状態に対して、QM/MM RWFE-SCF 自由エネルギー構造最適化計算を行った。その結果、数マイクロ秒の構造最適化計算の後、自由エネルギー最適化構造を得ることに成功した。一方、反応エネルギーに対する密度汎関数法の大きな汎関数依存性を発見し、それを解決すべく、高精度な CCSD(T) 計算を用いた補正を行い、妥当なエネルギーを与える汎関数を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載の計画に対して、概ね順調な成果が得られている。F1-ATPase に関しては、リン酸脱離状態の自由エネルギー構造最適化が完了し、反応遷移状態の自由エネルギー構造最適化計算を開始することが出来た。また、リン酸結合状態の計算でも、γサブユニットの回転がこれまで考えられてきたものより非常に大きいことが示唆される結果が得られており、今後のモデリングにより新たな知見が得られることが期待される。LOV ドメインに関しては、光活性化状態における顕著なタンパク質の構造変化が観測されており、X 線結晶構造解析では結晶場の影響により見えなかったタンパク質光活性化の構造変化を捉えることができると期待される。また、HIV プロテアーゼに関しても、長時間の自由エネルギー構造最適化計算が完了し、反応自由エネルギーの見積もりが可能になった。また、反応エネルギーの汎関数依存性も解決し、高精度の計算が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
F1-ATPase に関しては、リン酸脱離状態における反応遷移状態の QM/MM RWFE-SCF 計算を続行し、自由エネルギー最適化構造を得る。最適化構造が得られた後、その解析を行うと共に、反応始状態と遷移状態の間の自由エネルギー差、つまり反応活性化自由エネルギーを Bennett acceptance ratio 法に基づく MD シミュレーションにより計算することにより、反応の触媒活性機構を明らかにする。また、リン酸結合状態に関しても、γサブユニットが回転した状態のモデリング及び自由エネルギー構造最適化計算を行うことにより、リン酸結合状態‐γサブユニット回転‐触媒反応活性化の構造的な相関を明らかにする。LOV ドメインに関しては、光活性化状態のシミュレーションをさらに進め、安定な光活性化状態の自由エネルギー最適化構造を得ることにより、FMN 分子とシステイン側鎖との adduct 形成に端を発するタンパク質光活性化機構を明らかにする。HIV プロテアーゼに関しては、新たに決定した汎関数を用いた構造最適化を行う。更に、反応の始状態と遷移状態に近い中間状態の自由エネルギー構造最適化を行うことにより、反応機構を明らかにする。
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