研究課題/領域番号 |
16H04777
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石島 秋彦 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (80301216)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 走化性 |
研究実績の概要 |
大腸菌細胞極には10,000分子以上レセプターが存在し,それらが全くランダムかつ確率的に活性化した場合,細胞内のCheY-P濃度の増減はおこらず,ある値に平均化されてしまうはずなので,細胞内情報伝達物質CheY-P濃度のダイナミックな増減を生みだすためには,10,000分子以上が集まったレセプターがレセプタークラスター内部の協同性によってあたかも巨大な少数の分子のように振る舞う(1分子のレセプターの活性化および不活性化が10,000分子のレセプター全てに伝搬する)ことが想像される.このことは多数分子のクラスタリングによる新たな機能発現という観点からも非常に興味深い問題である.我々はシミュレーションによる化学物質の振る舞いを明らかにした.基本的には拡散運動によるシミュレーションであるが,細胞内・間においては高い協同性が指摘されている.我々は受容体の高い協同性に着目し,受容体の単純な4状態モデルに隣接する受容体の協同性を加えたモデルを構築し,その活性化の動態シミュレーションを行ったところ,パッチ状の活性化状態の出現を実現することができた.さらに数%の性質の異なる分子をランダムに配置したところ,自発的振動現象が濃度に応じて減少することを確認した.この結果は受容体の変異体を共発現した実験結果と定性的に一致した.しかしながらその濃度依存性については協同性に関して異なっており,実際にはレセプター下流の拡散運動,モーターへのCheY-Pの協同性を考慮する必要がある.今後の課題として,このモデルの最適化を図り,受容体のごく一部の受容体の集合を刺激した場合の応答などを計算し,実際の実験結果との比較を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的であった自発的な振動現象の再現についてはおおむね成功している.その大きな要因はメチル化を組み込んだ4状態モデルにある.現在シミュレーションにおける各種パラメータの最適化を図っており,おおよそ実験結果と一致する結果となった.しかしながら,CW,CCW状態の持続時間の分布が実験結果と完全には一致しない.そもそも実験における持続時間の分布は菌体自身,菌体の生育条件によって大きく異なる.従って,どこを目標にすればいいかがまだ定まっていない.
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては,自発的な振動が起こる条件を各種パラメータによる相図の作成を行う予定である.この相図を作成することにより従来から提唱されているリミットサイクル現象との類似性を評価する.また外乱による影響を考えるため,さらに誘因・忌避物質を考慮した6状態モデルを作成し,外乱に対する頑強性,感受性の評価を行い,自発的振動の生命科学的役割について検討する.
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