研究課題
アミロイド線維は、自らの末端構造を鋳型として正常タンパク質をアミロイド構造へと変換し構造伝播する。本研究では、鋳型構造の実体および核が形成され伝播性が発揮されるまでのタンパク質構造形成メカニズムを明らかにするため、「線維前駆中間体」の存在に注目し、これを安定に蓄積させたうえで解析する。さらにオリゴマー段階で示す毒性発現機構にも注目し、線維前駆中間体の解析を通してアミロイド線維の伝播性と細胞毒性の発現機構をタンパク質構造の見地から明らかにすることを本研究課題の目的とする。これまでインスリン、インスリン由来ペプチド断片、アミロイドβタンパク質、トランスサイレチンを解析対象として線維前駆中間体の捕捉を試みてきた。その結果、インスリン由来ペプチド断片については線維前駆中間体が明確に蓄積するアミロイド線維形成経路が明らかとなったので、H29年度はCDとDLSを用いた時分割的な構造変化の観察を実施し線維前駆中間体が構造発達するプロセスの解析を行った。その結果、線維前駆中間体は2種類存在するが、2番目に生成する中間体のみが核を生成できるという興味深い結果を得ることができた。さらにこの線維前駆中間体はフィブリノーゲンと相互作用することにより後続のアミロイド線維形成が阻害されることも明らかになったので、中間体とフィブリノーゲンとの相互作用様式についても検討した。アミロイドβタンパク質、トランスサイレチンについても引き続き線維前駆中間体の捕捉を試み、アミロイドβタンパク質については、リポソームを用いた細胞毒性の検討も開始した。
2: おおむね順調に進展している
線維前駆中間体を経由したアミロイド線維形成反応に注目することで、核形成に関わるタンパク質分子の集合や構造変化の実態に近づくことが出来つつあると考えている。なかでも特定の線維前駆中間体のみが核形成に寄与するという事象の発見は、中間体の内部に核形成を促進する何らかの秩序構造が秘められる可能性を示唆する。今後、核形成する中間体としない中間体を比較することができれば、核形成時に必要なタンパク質集合構造は如何なるものかについて明らかになることが期待される。
H30年度は、インスリン由来ペプチド断片の示す核形成プロセスをより詳細に明らかにするため、小角X線散乱をはじめとしたいくつかの解析手法を加えて中間体の構造的特徴の解析と生成過程の時分割観察を試みる。また、反応条件を変えることによって異なる線維前駆中間体種が見られるのか否かについても検討する。上述のフィブリノーゲンによる核形成阻害についても、その機構解明のため詳しく検証を行う。アミロイドβタンパク質については、これまでに見出した反応条件では線維前駆中間体の明確な観察が依然困難なため、検出手段の改善に加えてより良い反応条件を探索したいと考えている。トランスサイレチンについても引き続き線維前駆中間体の捕捉を試みる。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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