アミロイド線維は、自らの末端構造を鋳型として正常タンパク質をアミロイド構造へと変換し構造伝播する。本研究では、鋳型構造の実体および核が形成され伝播性が発揮されるまでのタンパク質構造形成メカニズムを明らかにするため、「線維前駆中間体」の存在に注目し、これを安定に蓄積させたうえで解析する。さらにオリゴマー段階で示す毒性発現機構にも注目し、線維前駆中間体の解析を通してアミロイド線維の伝播性と細胞毒性の発現機構をタンパク質構造の見地から明らかにすることを本研究課題の目的とする。 これまでに、いくつかのアミロイド線維形成性タンパク質を解析対象として線維前駆中間体の捕捉および構造的特徴の解析を試みた。その結果、インスリンB鎖については、線維前駆中間体が構造発達しながらアミロイド線維構造が生成するまでの様子が明らかになった。さらに異なるpH環境において、異なる構造を持った線維前駆中間体と最終線維構造が観察されることも分かった。トランスサイレチンについては、針状のアミロイド線維形成を試験管内で観察するのが難しくフィラメント状の凝集体の解析に留まったものの、この凝集体の生成プロセスにも線維前駆中間体というタンパク質の初期集合がアミロイド線維形成に重要な役割を果たしている可能性が見出された。アミロイドβタンパク質(Aβ)については、42残基から成るAβ1-42で線維前駆中間体の生成が示唆されたものの、詳細な構造解析には至らなかった。また、過去に報告されている毒性オリゴマーと線維前駆中間体の関連性を評価するため、昨年度までに準備したリポソーム実験系を用いて線維前駆中間体の生成に伴う脂質膜の破壊の様子を観察したが、顕著な破壊は確認できなかった。
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