MAPK pathwayの上流にあるグアニンヌクレオチド交換因子SOSは、細胞膜外からのシグナルの受容によるGrb2との結合によってふたつのRas(catalytic、allosteric)を結合し、catalytic RasのGDPを解離させることで、高濃度に存在するGTPを結合し、下流にシグナルを伝えるRasGTPを生成する。この過程で、SOS Cdc25ドメインのhelical linker(930-974)がRasのnucleotide結合サイトに挿入され、switch Iが開いた構造(nucleotide非結合状態の構造)に固定することが必要となる。これには、二つの運動[RasGDPのswitch Iの開閉運動、SOS Cdc25ドメインのhelical linker(930-974)の開閉運動]が同時に起こり、catalytic Rasの結合に伴いswitch Iを開放し、GDPを解離させることが必要である。昨年度までに、SOS Cdc25のhelical linkerの運動が確認されたことから、今年度は前者のRasGDPのswitch Iの開閉運動について、weighted ensemble法とreplica exchange umbrella sampling法を用いて研究を行った。その結果、閉状態→開状態への構造変化は、単体のRasGDPにおいて時定数0.042 /μs、自由エネルギー差9.6 kcal/molであることがわかり実現可能な運動であることがわかった。また、同様な計算をRasGTPで行ったところ、時定数0.004 /μs、自由エネルギー差11.3 kcal/molとなり、その差の理由は構造変化経路上の障壁にあることがわかった。
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