研究実績の概要 |
リサイクリングエンドソーム(RE)に豊富に存在するリン脂質ホスファチジルセリン(PS)の近傍タンパク質として385種類のタンパク質を同定したが(Matsudaita et al., Nature Commun 2017として公表)、この中には12種類のSer/Thrホスファターゼが含まれていた。PP1ファミリーに属するホスファターゼ(6種類の調節サブユニットPPP1R8、PPP1R9A、PPP1R10、PPP1R12A、PPP1R13A、PPP1R37と3種類の触媒サブユニットPP1A、PP1B、PP1C)とPP2ファミリーに属するホスファターゼ(2種類の調節サブユニットPPP2R1A、PPP2R5Dと1種類の触媒サブユニットPPM1G)である。The Cancer Genome Atlas Programで公開されているデータの解析から、この12種類のホスファターゼのうちPPP1R12AとPP1Bはその発現量と乳がんの悪性度に相関が認められた。 この2種類のホスファターゼが細胞増殖・YAPシグナルに関与するかどうか検討を行なった。YAP依存的に増殖する乳がん細胞MDA-MB-231でPPP1R12AおよびPP1Bをノックダウンしたところ、細胞増殖が劇的に抑制され、YAPの不活性型であるリン酸化YAP(p-YAP)が増加した。一方、YAP非依存的に増殖する乳がん細胞MCF-7では、PPP1R12AおよびPP1Bのノックダウンは、細胞増殖に影響を与えなかった。 ついで、 PPP1R12Aの細胞内局在を検討したところ、REを含む核近縁部のオルガネラに局在していることが示唆された。REの細胞質側脂質層に存在するPS量は、PS flippaseであるATP8A1の制御をうけているが、ATP8A1をノックダウンしたところ、PPP1R12AのRE局在が減少する傾向を見出した。以上により、PPP1R12AホスファターゼがPS依存的にREに局在し、YAPの脱リン酸化を行うことでYAPシグナルを正に制御していることが示唆された。
|