研究課題
本研究では、ヒトデ卵を用いて、卵成熟誘起ホルモン(1-methyladenine, 1-MeAde)が卵表に作用して卵内でcyclin B-Cdk1(Cdk1)の活性化をもたらす際の、閾値設定の分子的背景を明らかにすることを目的としている。本年度は、以下の点が判明した。1.前年度の解析から、1-MeAde刺激からCdk1の初期活性化に至る経路として、Gbgの下流には、typical Gbg経路(PI3K-PIP3-Akt経路)とatypical Gbg経路(typical Gbg経路を介さないが、Cdc25とMyt1のAkt部位リン酸化を促進する経路)の両方が存在することが確かとなった。そこで、このatypical Gbg経路の実体解明を目指した。まず、Aktの活性化(抗Akt A-loopリン酸化抗体を用いて判定)にはPI3Kだけで十分であり、atypical Gbg経路は関与していないと結論した。2.ところが上記の抗Akt A-loopリン酸化抗体は、ヒトデ卵において、Aktだけでなく、同じAGCキナーゼ群に属するSGKのA-loopのリン酸化をも認識することが判明した。実際、A-loop付近のアミノ酸配列は、AktとSGKの間で保存度が高い。3.SGKの活性化もPI3Kに依存することが知られているが、実際、ヒトデ卵での1-MeAdeによるCdk1活性化過程においても、SGKはA-loopがリン酸化され、この活性化はPI3Kを必要とするが、PI3Kだけでは十分ではないことが判明した。これは、SGKの活性化が、atypical Gbg経路も必要としている可能性を強く示唆している。4.さらにSGKによるリン酸化部位の保存配列はAktと同じであることが報告されており、SGKはatypical Gbg経路のeffector kinaseである可能性が、突如高まった。
1: 当初の計画以上に進展している
atypical Gbg経路のeffector kinaseの有力候補としてSGKが浮上したのは、予想を越えた進展といえる。しかも、SGKの活性化はPI3Kも必要としているという事実は、SGKはtypical Gbg経路とatypical Gbg経路の両経路をまとめたeffector kinaseである可能性を示唆している。この発見は、単に本研究課題の閾値設定機構を越えて、1-MeAde下流でのCdk1の初期活性化機構の解明に全く新規の境地を切り拓く画期的な成果といえる。
これまではtypical Gbg経路のeffector kinaseとしてAktのみを考えていたが、今回、SGKが急浮上し、AktとSGKの関係解明が、喫緊の課題となった。当面、1-MeAde下流でのCdk1の初期活性化に、はたして両方のキナーゼが必須であるのか;その場合は役割分担はあるのか;それとも、片方のキナーゼさえあればよいのか;あるいは、一方は不要であるのか等々を、まずは落着させる必要があると考えている。その上で、Cdk-NFはtypical Gbg経路やatypical Gbg経路にも影響を及ぼすかも検討して、閾値設定機構の概略を判明させたい。
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巻: 145 ページ: 印刷中
10.1242/dev.156786
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