私たちの研究室では出芽酵母をモデル生物に用いて、選択的オートファジーによるミトコンドリアの丸ごと隔離・除去(マイトファジー)の分子基盤を全ゲノム情報に対して探索し、オートファジーの仕組みをミトコンドリアへリクルートするための分別マークAtg32を世界に先駆けて発見し、その分子機能を解析してきた。Atg32は1回膜貫通ドメインを介してミトコンドリア外膜へ局在する、酵母マイトファジーに特異的かつ必須な、唯一の因子である。これまでの研究で、(1) Atg32がユビキチン化を受けること、(2) Atg32が小胞体の膜貫通型ユビキチンE3リガーゼDoa10と相互作用すること、(3) Doa10欠損がAtg32のタンパク質レベルの上昇と早期のマイトファジーの亢進を引き起こすこと、(4) Doa10欠損細胞でAtg32がミトコンドリアだけでなく小胞体にも一部局在することを見出してきた。これらの知見は、Atg32の一部は小胞体へと運ばれ、Doa10によるユビキチン化を介してタンパク質レベルが負に調節されることで、早期のマイトファジーを抑制していることが示唆している。
そこで本年度では、Atg32の小胞体局在に関与する因子の探索と、Doa10によるユビキチン化の生理的意義について解析を進めた。その結果、タンパク質の膜挿入を促進するGET経路に依存してAtg32は小胞体へ運ばれていること、Doa10欠損細胞ではマイトファジーが亢進するだけでなく、Atg32の過剰発現で小胞体の分解も引き起こされることが明らかとなった。これらのデータは、Doa10がAtg32のユビキチン化を介してマイトファジーの制御に関わるだけでなく、Atg32による小胞体の無秩序な分解を回避するために働いている可能性を提起している。
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