研究課題/領域番号 |
16H04797
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
澤 斉 国立遺伝学研究所, 構造遺伝学研究センター, 教授 (80222024)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 器官形成 / 細胞極性 / Wnt / 非対称分裂 |
研究実績の概要 |
鏡像対称な生殖巣は、生殖巣の伸長を制御する二個のDTCが鏡像対称な移動(前方のDTCが前方に、後方のDTCが後方に移動)することで形成される。この移動方向は、生殖巣前駆細胞Z1/Z4が鏡像対称な極性を持つ結果であり、これらの細胞の極性方向が逆転すれば、移動方向も逆転する。この極性は、βカテニン(WRM-1)やTCF転写因子(POP-1)の非対称局在を介した非対称分裂を制御しているが、その結果生じた娘細胞(DTC)は母細胞の極性方向に従って移動する。Z1/Z4細胞の極性は、LIN-17/Frizzledと三種類のWnt(CWN-1 CWN-2 EGL-20)が並列に働くことで制御されている。 LIN-17はZ1/Z4細胞の間に存在する生殖細胞との境界に時に強く局在している。さらにカドヘリン/HMR-1もこの境界に局在していることを明らかにした。また、Frizzledの下流で働く、DSH-2/Dishevelledも同様の局在をしている。Z1/Z4細胞と生殖細胞との接着により、LIN-17の局在が誘導される可能性が高い。我々は以前生殖細胞がZ1/Z4細胞の極性に必要であることを示しており、LIN-17がこの境界面に局在することで、生殖細胞からのシグナル受容に関与する可能性がある。 また、われわれは、PCPシグナル経路の変異体(vang-1 prkl-1)でDTCの形成が低頻度であることを発見した。Z1/Z4の極性がβカテニン(WRM-1)を介したシグナル経路のみならず、PCP経路によっても制御されていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Z1/Z4細胞の鏡像対称な極性は、lin-17/Frizzled cwn-2/Wnt egl-20/Wntによって制御されており、三重変異体(lin-17 cwn-2 egl-20)では、Z1の極性方向がZ1と同じになり、生殖巣は鏡像対称でなく、同じ方向に二本の生殖巣が形成される(Dpd表現形と呼んでいる)。これらの遺伝子の働きを明らかにするために、二重変異体(lin-17 cwn-2、 lin-17 egl-20またはcwn-2 egl-20)で、Dpd表現形を生じる変異体をスクリーニングしたが、この表現形を高頻度に示す変異体は得られなかった。しかし、少なくともそれぞれ、egl-20、cwn-2, lin-17変異体は同定できるはずであり、スクリーニングで用いた変異原が失活していた可能性が高い。
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今後の研究の推進方策 |
新しい変異原を用いて上記のスクリーニングを続ける。二重変異体(lin-17 cwn-2、 lin-17 egl-20またはcwn-2 egl-20)を変異原処理して、Dpd表現形を示す線虫を単離し、原因遺伝をについて調べる。 PCP経路の働きを明らかにするために、vang-1, prkl-1とWntやLIN-17/Frizzledとの遺伝学的相互作用を調べる。またVANG-1、PRKL-1の局在をGFP融合蛋白を発現させて調べる。 生殖細胞からのシグナルとLIN-17との関係を明らかにするために、生殖細胞が存在しないmes-1変異体と、lin-17 mes-1二重変異体でZ1/Z4細胞の極性を比較する。lin-17が生殖細胞からのシグナルを仲介しているなら、これらの変異体で極性異常の頻度は同程度になると予想される。
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