研究課題
シロイヌナズナの根毛およびトライコームは植物細胞分化のモデルケースとして精力的に研究されてきた。その結果、それらを含む植物表皮細胞の分化には共通の転写制御ネットワークが関与し、転写因子GRABLA2 (GL2)がそのネットワークの出力装置として働くことが明らかになっている。しかし、細胞分化の運命決定に関わるGL2上流のネットワークが明らかになっている一方で、細胞形態を含む細胞機能の分化につながるGL2下流の制御経路については未だ断片的な理解のままである。本研究では、根毛細胞分化に関わるGL2下流の経路を中心にそれらの制御的役割を解明する。これにより、根毛発生の制御経路全体を明らかにするとともに、植物表皮細胞機能分化の初動における制御機構モデルの確立を目指す。平成28年度においては以下の研究を行った。GL2の直接標的であるPLDζ1遺伝子およびその遺伝子産物の生物学的機能を調べるために、T-DNA挿入変異体を用いた遺伝学的解析を行った。その結果、PLDζ1遺伝子の機能欠失は、胚発生より後の個体の成長に厳しい影響を与えるものの、その表現型の浸透度は世代間及び系統間で大きく変化することが判った。これは人為的遺伝子発現抑制系を用いた解析結果と整合するものであり、何らかの誘導的な補償機構の存在が想定される。一方、PLDζ1-YFP融合タンパク質および細胞内局在マーカーを用いた解析の結果、PLDζ1は根の表皮細胞においてトランスゴルジネットワークに局在することが明らかになった。GL2の直接標的であるPGP遺伝子群の各変異体およびそれら多重変異体の確立を行った。また、それらにおけるオーキシンの動態をオーキシンシグナルマーカーや蛍光オーキシンを利用して解析する系の構築を行った。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度においてはPLDζ1遺伝子の機能解析を中心に研究を進め、その根毛形成過程における役割のみならず、植物成長全体に関わる機能の解明へと発展している。他のGL2標的遺伝子についても徐々に解析の準備が進んでおり、全体としておおむね順調に進展していると言える。
平成29年度以降には、PLDζ1遺伝子、PGP遺伝子などのGL2標的遺伝子の機能解析、およびそれらのさらに下流で働く制御機構へと解析を進め、最終的にはGL2が統御する植物表皮細胞における分化制御機構の全体像の解明を目指す。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Plant and Cell Physiology
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