研究課題
本研究では、キスペプチン(Kiss)や生殖腺刺激ホルモン放出抑制ホルモン(GnIH),生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)、メラトニン受容体(MelR)、クリプトクローム(Cry)の遺伝子発現調節に焦点をあてて、松果体と視床下部神経内分泌系の機能形態学的解析を基盤として、15時間周期及び月齢に同調した新規の生物リズムの発振機構、そして、その形成における光(月光)と水圧(潮汐)の役割を明らかにする。また、生息地域による産卵リズムの違いや個体発生におけるリズムの形成過程に注目して、生殖リズム形成に必要な環境条件を明らかにすることによって、人工的環境による生殖リズムの再現と改変の可能性を探る。平成28年度では、下の3つの研究を実施した。1)新規の生物リズムの発振機構に関する研究として、これまでに行った間脳のRNAシークエンスのデータを検討し、発現量が15時間周期で変動する遺伝子の候補を221個同定した。これらの中から、概日時計に関係するneuronal PAS domain protein 3遺伝子と細胞内情報伝達に関係するイノシトール3リン酸合成酵素遺伝子について、概日発現変動を詳細に解析した結果、共に約15時間周期で変動することが明らかになった。2)クサフグ成魚の行動リズムを解析する実験系を検討した。飼育下の魚をビデオ撮影し、その行動を全自動化行動定量解析装置で解析した。自発遊泳する魚の体表の模様をマークして行動を追跡できる実験条件を確立した。3)MelR遺伝子プロモーターの下流に分泌型ルシフェラーゼ遺伝子をつないだ遺伝子コンストラクトを作製して、クサフグ受精卵に導入した。導入遺伝子がゲノムに組み込まれた個体を確認したが、その後死亡したため、ルシフェラーゼの発現は確認できなかった。また、ゼブラフィッシュ導入用の遺伝子コンストラクトを作製した。
3: やや遅れている
計画から遅れている部分として,松果体と視床下部の機能形態学的研究と松果体の弱光に対する反応性に関する研究が挙げられる。共に、解析に必要な個体を採集することができなかったためであり、平成29年度では産卵魚の採集地点を増やすなどして、研究を実施する。新規の生物リズムの発振機構に関する研究においては、概ね計画とおりに研究が進行している。遺伝子導入魚を用いた研究は計画より早く進行し、作製した遺伝子コンストラクトを受精卵に導入してその発現解析まで実施した。しかし、実験魚が飼育中に死亡したために、導入遺伝子の発現を確認することができなかった。そのため、孵化後、仔魚から幼魚における安定した飼育が可能になるように、循環型の小型魚類飼育装置を新たに導入した。
計画より遅れている部分について、十分な数の産卵魚を採集し、松果体と視床下部の機能形態学的研究を実施すると共に、松果体の弱光に対する反応性に関する研究として、月齢にともなった血液中のメラトニン量の変化、弱光暴露によるメラトニンの分泌量の変化を解析する。新規の生物リズムの発振機構に関する研究については、松果体における15時間周期の発現遺伝子の網羅的解析を行い、間脳における15時間周期発現遺伝子との相違を明らかにする。行動の15時間周期のリズムの検討については、魚の自発遊泳行動以外にも潜砂行動および摂食行動について検討する。遺伝子導入魚を用いた研究については、MelR遺伝子プロモーター:ルシフェラーゼ遺伝子コンストラクトを、クサフグ受精卵に導入して、発生、成長過程における周期的発現変動を解析する。また、周年を通して成熟卵が得られるゼブラフィッシュを用いた遺伝子導入および解析実験を行う。さらに、GnRH2遺伝子のプロモーターの下流に分泌型ルシフェラーゼ遺伝子あるいはEGFP遺伝子をつないだ遺伝子コンストラクトを作製し、平成30年度から遺伝子導入個体を用いた解析を行う。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 3件、 査読あり 11件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 12件、 招待講演 8件) 図書 (3件) 備考 (1件)
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