研究課題
本研究の目的は、3オルガネラに共通の外側の分裂マシンに注目し、その主構造である「PDリング、MDリング、PODリング」と「ダイナミンリング」の微細構造と機能を、従来の細胞生物学的技術に加えて、ゲノム形態学的技術を駆使して解明することであった。その結果、MDリングもPDリングに類似した糖繊維の束であり、リングの中にある糖合成酵素(Glycosyltransferase)によって作られることが明らかとなった(PNAS 2017)。更にPODリングに関しても糖からなる繊維束である可能性があり、現在解析を進めている。一方ダイナミンリングについて、最小のペルオキシソームで調べた。その結果、POD分裂リングには特定の合成開始点(DOC)があり、そこから一方向に向かって合成されること、そしてこのリングが収縮に関与する事が明らかになった。更に収縮の後期には別の合成開始点から新たなリングの合成が起こり、それが最後の膜分断に関与する事が分った。これらオルガネラの分裂リングの類似性から3分裂マシンの構造と機能が推定された。更にこれらシゾンで解明されてきた分裂マシンに関わるゲノム情報と緑藻メダカモのゲノム情報とを比較解析するため、メダカモの全ゲノム解析を行い、良好な結果を得た。現在オルガネラの分裂マシンの構造と機能に関する共通原理と起源について比較解析を行っている。
1: 当初の計画以上に進展している
申請者らは、原始紅藻類で色素体とミトコンドリアで内外のリングからなる分裂マシンを発見した。内側のリングは細菌由来のFtsZリング等、外側のリングは宿主由来の電子密度の高いナノ繊維束の分裂リング(PDリング、MDリングと命名)とダイナミンリング等から構築されていた。2013年単膜系のペルオキシソームでも分裂リング(PODリング)を発見した。更に複膜系の葉緑体のPDリングが糖のナノ繊維の束であることが解明した。本年度は、小さなMDリングが糖のナノ繊維の束であり、合成酵素を含んでいることを発見した(PNAS 2017)。これにより両オルガネラの分裂マシンの類似性が一段と高まった。そしてミトコンドリアより更に小さなサイズのペルオキシソームでもPODリングがあり、これを使い詳細な構造解析が出来た。ダイナミンリングの形成起点、リングの形成方向、収縮、そして膜を分断する新たなダイナミンリングの形成が分かった(JCS 2017)。またPDリングの形成はオルガネラ核(核様体)の分裂直後に起こる事が明らかにされているが、今回葉緑体核の分断に直接関わる酵素が発見された(Science 2017)。今後このオルガネラ核分裂とオルガネラ分裂との関連についても研究課題としたい。更に小さくシンプルなペルオキシソームの分裂装置の構成成分が明らかになったため、試験管内でそれらの物質を混合することによって人工的にリングを合成することに成功した(投稿中)。またメダカモの細胞核、ミトコンドリア核、葉緑体核の核ゲノムの全塩基配列が解読されたため、紅藻シゾンの分裂マシンの形成に関わる遺伝子をメダカモゲノム内遺伝子と比較解析する事が可能となった。更に真核生物のオルガネラ分裂マシン共通の構造と機能、その進化的意義が考察できるようになった。
今後も真核細胞の分裂・増殖に関わる基本原理の解明を、細胞核だけでなく、その他の細胞内6種のオルガネラの分裂・増殖を考慮して推進する。この為には解析し易い紅藻シゾンと緑藻メダカモを使う。これらの共通性は、1) 光の明暗で、細胞・オルガネラを自然同調的に分裂させる事ができること、2)オルガネラが細胞当たり殆ど1個で、それぞれが単純形態であり、細胞内のオルガネラ状態を容易に顕微鏡観察ができること、3) ゲノム情報が完全に解明され、容易で完全な遺伝子破壊法が開発されたこと(FPS 2017)、4) 各オルガネラの単離が可能で生化学的解析(メダカモは未定)が出来ること、更に5) 両者とも真核生物の起源に近いと考えられること等であり、他の生物に比べて微細構造やその機能をゲノム科学的に解析することが有利と考えられる。本研究により複膜に包まれたミトコンドリア、葉緑体と、単膜に包まれたペルオキシソームで、分裂マシンは基本的には糖のナノ繊維とダイナミンリングを基盤にして形成され、マシンの形成点、合成方向、収縮、そして最後の膜分断の仕組みの一般性の解明が可能となった。今後もこの解析を進めたい。次にこれらの構造形成と機能の共通性を基盤に、真核細胞形成におけるオルガネラの誕生機構を考察したい。また他のオルガネラでも装置の存在を探索する。更に紅藻と緑藻のオルガネラの分裂マシンのゲノムの形態比較から見えてきた真核細胞の分裂・増殖の共通原理と起源を考察する。
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