研究実績の概要 |
学習の基本メカニズムの解明は神経生物学の最重要課題の1つである。哺乳類では、連合学習が「予測誤差」に基づいて起こるという理論がRescorlaとWagner (1972)により提唱されている。昨年度までの研究により、フタホシコオロギの学習に予測誤差理論の適用できること、報酬学習および罰学習において予測誤差の情報を担うのはオクトパミンニューロンおよびドーパミンニューロンであることがわかった。これは学習メカニズムの哺乳類と昆虫での共通性を示す画期的な成果である。本年度はさらに以下の研究を行った。 コオロギの学習への予測誤差理論の適用可能性とその限界についての検証実験:昆虫の学習現象の全てが予測誤差理論で説明できるのだろうか?この問いに答えるため、コオロギにおいてoverexpectation, inhibitory learning, latent inhibition, spontaneous recovery,といった種々の学習現象について解析した。そのうちoverexpectationなどは予測誤差理論でよく説明できた。しかしlatent inhibition やspontaneous recoveryなどは、予測誤差理論での説明は困難であった。これにより、予測誤差理論は昆虫の学習を説明する基本理論と言えるが、それだけでは説明できない学習現象が昆虫にあることが明らかになった。 ゴキブリでの免疫組織化学によるニューロン染色:報酬学習に関わるオクトパミンニューロンの同定を目的に、オクトパミン合成酵素の抗体で染色されるゴキブリ脳ニューロンの解析を進めた。その結果、キノコ体の傘部(入力部)に軸索が投射するニューロンの一部が、そのようなニューロンの候補であることが分かった。それらのニューロンからの電気生理学的記録を試みているが、これまでのところ顕著な成果は得られていない。
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