研究課題
脊椎動物がもつフェロモン感覚は、生殖システムの中心的役割を果たすと考えられるが、私はポリプテルスやシーラカンスなどの古代魚から陸生哺乳類まで、ほぼ全ての脊椎動物ゲノム中に共通だと考えられる新規フェロモン受容体候補遺伝子(ancV1Rと名付けた)を発見した。本研究では進化的・分子生物学的な解析を通して、このancV1Rの機能を明らかにすることを主目的とする。初年度においては、まず広範な生物種のドラフトゲノム配列から、ancV1Rを含めたI型鋤鼻受容体遺伝子の配列を網羅的に取得し、その大系統樹を作成した。その結果ancV1Rは既知のフェロモン受容体V1Rファミリーに含まれることが確認され、さらには脊椎動物のV1Rの中では進化的に初期に登場した遺伝子であることも明らかとなった。さらに脊椎動物の進化の過程で極めて保存的であるにもかかわらず、このancV1Rはいくつかの種において偽遺伝子化していることが明らかとなり、その偽遺伝子化のパターンが鋤鼻器官の退化と強く相関していることがわかった。このためancV1Rは鋤鼻器官におけるフェロモン受容の中心的かつ基盤的な役割をしていることが期待された。これはancV1Rの発現パターンが鋤鼻器官全体に渡っていることからも強く示唆される。ancV1R遺伝子の系統樹は種の系統関係と正確に一致しており、これはancV1Rがパラログではなく相同な遺伝子座であることをあらためて示唆している。また、分担研究者の廣田准教授のラボでは、CRISPR/Cas9システムを用いたancV1R-KOマウスの作出に成功し、戻し交配も順調に進んでいる。
2: おおむね順調に進展している
これまでに多くの脊椎動物の全ゲノムドラフト配列が登録されてきたが、ancV1R遺伝子が偽遺伝子化している種については鋤鼻器官が退化していることはほぼ間違いないことが明らかとなった。また、ancV1Rの遺伝子系統樹と種の系統樹が一致していることは、ancV1Rが遺伝子の重複と喪失によって生じたパラログを比較している可能性が極めて低いことを強く示唆しており、本研究の注目するancV1Rが長い期間保持されてきたオーソログであることに関する強い証拠を得られた。さらに広範な脊椎動物種においてancV1R遺伝子の周辺のシンテニーを調べたところ、本遺伝子はsncaip遺伝子のイントロンに存在することがわかり、シンテニー解析からもancV1Rがオーソログであることが強く示唆された。ここまでで一度論文として発表する予定である。KOマウスの構築も進んだことから、この研究は順調に進展している。
ancV1R-KOマウスの解析を中心に進めていく。まずは廣田研究室にて行動(縄張り行動、生殖行動、雌雄判別能力等)観察を詳細におこなうことで、その機能に関する予想をたて、その検証につながる実験を計画していこうと考えている。また、同時にancV1Rのエンハンサー領域を明らかにするために、鋤鼻器官におけるChIPseqを実施する。比較対象としては主嗅上皮と嗅球(脳)を用いる。エンハンサー領域が明らかになった際には、鋤鼻特異的な転写因子の探索や、その領域の進化的な保存も調べていこうと考えている。最終的には、このancV1Rが他フェロモン受容体とどのような共役をすることでフェロモン受容を可能にしているのか、そのメカニズムを解明できるように培養細胞における強制発現系の実験を見据えて実験を進める。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www.nikaido.bio.titech.ac.jp/index.html