研究課題
脊椎動物がもつフェロモン感覚は、生殖システムの中心的役割を果たすと考えられている。フェロモンやその受容体はそれぞれの種に特異的であり、その種間共通性は低いことが知られているが、私はポリプテルスやシーラカンスなどの古代魚から陸生哺乳類まで、ほぼ全ての脊椎動物ゲノム中に共通だと考えられる新規フェロモン受容体候補遺伝子(ancV1Rと名付けた)を発見した。本研究では進化的・分子生物学的な解析を通して、このancV1Rの機能を明らかにすることを主目的とする。H29年度は、ancV1Rを広範な哺乳類ゲノムを対象にBLASTを用いた網羅探索をおこなったところ、ancV1Rは脊椎動物の進化の過程で極めて保存的であるにもかかわらず、いくつかの種において偽遺伝子化していることが明らかとなった。具体的には高等霊長類、クジラ類、コウモリ類で偽遺伝子化しており、これは鋤鼻器官の退化と強く相関していることがわかった。このことはancV1Rが鋤鼻器官において重要な役割を果たしている可能性を示唆するものであり、今後はゲノム解読の進展を待ち、より多くの哺乳類について、調べていこうと考えている。また、鋤鼻器官の有無に関して記載のない哺乳類に関しては、このancV1R配列がintactなのか偽遺伝子化しているかを調べることで、鋤鼻器官の状態(退化しているか否か)の判断をおこなうことが可能になるとも予想される。また、データベースを用いた情報学的な解析に加えて、ancV1R欠損マウスの作出も続けており、これが成功し次第、表現型観察も併せて進めていきたいと考えている。
2: おおむね順調に進展している
現時点でゲノム配列が公開されている哺乳類についてはすべての種についてancV1R配列を獲得し、その配列がフレームシフトやストップコドンが入った偽遺伝子化を起こしているかどうかの検証をおこなうことができた。その結果、概要にあるとおり、鋤鼻器官の退化という表現型と、ancV1Rの偽遺伝子化という遺伝子型に強い相関性が出たことは、進化学的には重要なことであり、さらにはフェロモン受容における今後の研究進展にもつながる発見となった。そのため、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
H29年度までに関しては、ancV1Rの遺伝子配列へのフレームシフトやストップコドンを指標にして、遺伝子への純化淘汰圧の緩みを検証したが、今後はさらにancV1R系統樹の各枝におけるdN/dS値を推定することでも、純化淘汰圧の緩みを検証しようと考えている。さらには、鋤鼻器官におけるin situ hybridizationによってancV1Rの発現パターンも詳細に観察していこうと考えている。これらのデータを統合して、論文も執筆する予定である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Molecular Ecology Resources
巻: 17 ページ: e63, e75
DOI: 10.1111/1755-0998.12690
http://www.nikaido.bio.titech.ac.jp