研究課題/領域番号 |
16H04824
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 矩行 沖縄科学技術大学院大学, マリンゲノミックスユニット, 教授 (30025481)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脊索動物の起源 / 比較ゲノム科学 / Brachyury / 遺伝子重複 |
研究実績の概要 |
脊索動物の起源と進化の問題は、我々ヒトを含む脊椎動物の起源とも関連して、この150年に渡り研究され議論されてきた。私達はこの問題にチャレンジすべく、これまでに2002年に尾索動物ホヤ、2008年に頭索動物ナメクジウオ、また2015年に半索動物ギボシムシのゲノム解読に成功した。すでに脊椎動物および棘皮動物ウニのゲノムが解読されているので、これで新口動物5群の全てのゲノム情報が揃った。私は、幼生型の変化、すなわち繊毛を使って遊泳する棘皮および半索動物などの幼生型から、サカナあるいはオタマジャクのように尾の筋肉を使って遊泳する幼生の発達が脊椎動物の起源をもたらしたという仮説を提唱してきた。この時、脊索動物を特徴づける脊索、筋節、背側中空神経管が生まれた。本研究の目的は新口動物5群の比較ゲノム科学的解析および進化発生生物学的解析を通してこの仮説を実証することである。 本年度はまず、これまでの脊索動物の起源と進化の問題に関する研究をレビューし、さらに上述の仮説をまとめて、"Chordate Origins and Evolution"と題する書籍を出版した。 次に上記の仮説を検証するために(1)脊索形成の分子発生生物学的メカニズムの解明、(2)脊索動物に特異的な筋肉形成メカニズムの解明、(3)背側正中線の形成のメカニズムの解明、の3つ研究を提案したが、本年度は特に(1)について研究した。T-box遺伝子ファミリーのBrachyury遺伝子は脊索形成に中心的役割を担う。棘皮動物・半索動物のBrachyuryは1コピーで原腸陥入の機能を担う。ところが頭索動物ナメクジウオのゲノムには2コピー存在する。そこでこの遺伝子重複が脊索動物の進化の際に起こったのかを比較ゲノム科学的解析に解析した結果、この重複は脊索動物の祖先ではなく、頭索動物の祖先でのみ起こった現象であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
提案した3つの研究、すなわち(1)脊索形成の分子発生生物学的メカニズムの解明、(2)脊索動物に特異的な筋肉形成メカニズムの解明、(3)背側正中線の形成のメカニズムの解明のそれぞれに比較ゲノム科学研究と実験発生学的研究とが含まれている。本年はまず、(1)を比較ゲノム科学研究に解析し、それなりの成果を得た。現在、実験発生学的解析も進めつつあり、本申請研究は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在、(2)について研究を進めている。脊索動物に特異的な筋肉形成メカニズムについては、これまでの研究から尾索動物・脊椎動物ではアクチン遺伝子が重複して細胞骨格型のアクチンと筋肉型のアクチンとになっていることを明らかにしている。しかし、これがいつ起こったのかは不明である。そこで、この問題を棘皮動物・半索動物・頭索動物のアクチン遺伝子の比較ゲノム科学解析から明らかにしたい。また、他の筋肉構造遺伝子および筋肉形成調節遺伝子の比較ゲノム科学的解析および分子発生生物学的解析を通して、尾を打つことによって遊泳する幼生の進化のメニズムを明らかにしたい、すでに研究を進めており、次年度はこれを中心に解析する。
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