脊索動物の起源と進化の問題は脊椎動物の起源とも関連してこの150年にわたり研究され議論されてきた。私達の研究グループはこの問題にチャレンジすべく、これまでに、尾索動物ホヤ(2002年)、頭索動物ナメクジウオ(2008年)、半索動物ギボシムシ(2015年)、さらにに棘皮動物オニヒトデ(2017年)のゲノム解読に成功した。すでに解読されている脊椎動物のゲノムを加え、これで新口動物5群全てのゲノム情報が揃ったことになる。私は初期発生様式の変化(幼生型の変化)、すなわち繊毛を使って遊泳する棘皮動物・半索動物の幼生型から、魚あるいはオタマジャクシのように尾の筋肉を使って遊泳する幼生への変化が脊索動物の起源の進化をもたらしたという仮説を提唱してきた。本研究の目的は、新口動物5群の比較ゲノム科学的解析および進化発生生物学的解析を通して、この仮説を実証することである。まず、これまでの脊索動物を門とし、脊椎動物、尾索動物、頭索動物を亜門とする分類体系を見直し、これら三亜門を門に格上げすることを提唱した。さらに、比較ゲノム科学的に尾索動物(ホヤなど)の進化を研究した。尾索動物は被嚢動物とも言われ、動物で唯一セルロースを合成する能力を持つ。セルロース合成酵素遺伝子(CesA)がユウレイボヤのゲノム中に存在することは分かっていた。最近になってORTHOSCOPEと名付けたweb toolを開発し、動物間でのオーソロガスな遺伝子比較を可能にした。このtoolを使って、CesAがホヤにだけ存在し、他の動物群に存在しないかどうかを解析したところ、これまでに公表されているホヤ全種のゲノム中にはCesA遺伝子が存在する一方で、尾索動物以外の動物には全く存在しないことを明らかにした。また、分子系統学的解析から、ホヤCesA遺伝子はバクテリアのCesA遺伝子の水平伝播によってもたらされたと結論づけた。
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