研究課題/領域番号 |
16H04826
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
稲垣 祐司 筑波大学, 計算科学研究センター, 教授 (50387958)
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研究分担者 |
谷藤 吾朗 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究員 (70438480)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞内共生 / 二次共生 / ヌクレオモルフ / ゲノム縮退 / 渦鞭毛藻 |
研究実績の概要 |
細胞内共生した緑藻と紅藻が葉緑体化した「二次共生」の過程で、ほとんどの共生藻は葉緑体以外の細胞内構造を失った。しかし、クロララクニオン藻とクリプト藻は高度に縮退したゲノムをふくむ共生藻痕跡核〔ヌクレオモルフ;NM〕を保持しているため、二次共生に伴う共生藻核ゲノム縮退の中間段階モデルとして研究されてきた。一方で、ゲノム縮退過程をより詳しく理解するには縮退段階の異なるNMゲノムが有効だが、NMをもつ新たな真核藻類は過去30年間発見されていなかった。本研究では、NMをもつ新奇渦鞭毛藻TRD-151株およびMRD-132株を対象に、二次共生に伴う共生藻核ゲノムの進化の共通原理を解明することを目標とした。 H28年度では、TRD-151株とMRD-132株からNMをふくむ葉緑体を粗精製した。この葉緑体サンプルからDNAを抽出し、全ゲノム増幅したのち、イルミナHiSeq2500を用いてシーケンスを行った。並行して、NMゲノムにおけるタンパク質コード領域の正確な推測を目指し、2種の渦鞭毛藻細胞の全mRNA配列を網羅的に決定した。その後、配列相同性とAT含量を手掛かりに、NMゲノム由来のmRNA配列を選別した。 TRD-151株とMRD-132株の祖先細胞は、共生したPeidnomonas属の緑藻を葉緑体化した。従ってPeidnomonas属の緑藻の核ゲノムは、渦鞭毛藻細胞内で葉緑体化する以前の共生緑藻ゲノム、即ちNMゲノムの祖先的状態に極めて近い可能性が高い。そこで渦鞭毛藻NMゲノムとの比較を最終目標として、H28年度はPedinomonas属緑藻P. minorゲノム解析と網羅的mRNA配列データ解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
緑色渦鞭毛藻TRD-151株、MRD-132株からRNAサンプルを調製し、網羅的mRNA配列データを取得することに成功した。同様に、ペディノ藻Pedinomonas minorからの網羅的mRNA配列データの取得も行った。 緑色渦鞭毛藻2株は、その細胞を強く遠心すると、NMをふくむ葉緑体と渦鞭毛藻核を分離できる。そこでそれぞれの培養細胞を遠心することで葉緑体と渦鞭毛藻核を分離したサンプルを取得した。粗葉緑体サンプルから核酸を精製、ゲノム増幅処理を行い、イルミナ社シーケンサーでの解析を行った。十分な量の配列データを取得できなかったこと、大量の核ゲノムの混入していることが判明したため、葉緑体と核の分別方法を改良する必要があることが判明した。 ペディノ藻P. minorについては培養細胞からDNAサンプルを調製し、ゲノム解析を行った。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度以降、渦鞭毛藻細胞からの葉緑体精製方法を再検討し、渦鞭毛藻核ゲノムDNAの混入の少ない葉緑体画分を取得し、そこからDNAを精製と増幅、NMゲノムシーケンスを行う。 取得した網羅的mRNA配列データから、NMゲノムから転写されたmRNA配列を同定する。NMゲノムは本来共生緑藻の核ゲノムである。従ってNMゲノムにコードされる遺伝子は、緑藻遺伝子と配列相同性が高いと予想できる。また、クロララクニオン藻、クリプト藻のNMゲノムとその遺伝子は、宿主核ゲノムとその遺伝子に比べてAT含量が高いという特徴がある。そこで、配列相同性とAT含量を総合し、mRNA配列データから低AT含量緑藻由来mRNA配列を抽出する。これらの低AT含量緑藻由来mRNA配列データとNMゲノムデータを合わせ、NMゲノム中でのタンパク質コード領域の推測を行う。 TRD-151株とMRD-132株の葉緑体の起源となったのはPedinomonas属に含まれる緑藻である。ペディノ藻Pedinomonas minorのゲノムデータ、全mRNAデータを取得した。この2つのデータを合わせて 、P. minorゲノムのタンパク質コード領域を推測する。 最終的に、NMをも緑色渦鞭毛藻2株とペディノ藻P. minorのゲノムデータを基盤として、NMゲノム縮退過程の解明を目指す。また同時に、緑色渦鞭毛藻2株とクロララクニオン藻・クリプト藻NMゲノムとの比較解析により、二次共生に伴う共生藻核ゲノムの進化の共通原理解明を目指す。
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