細胞内共生した緑藻と紅藻が葉緑体化した「二次共生」の過程で、ほとんどの共生藻は葉緑体以外の細胞内構造を失った。しかし、クロララクニオン藻とクリプト藻は高度に縮退したゲノムをふくむ共生藻痕跡核〔ヌクレオモルフ;NM〕を保持しているため、二次共生に伴う共生藻核ゲノム縮退の中間段階モデルとして研究されてきた。一方で、ゲノム縮退過程をより詳しく理解するには縮退段階の異なるNMゲノムが有効だが、NMをもつ新たな真核藻類は過去30年間発見されていなかった。本研究では、NMをもつ新奇渦鞭毛藻TRD-151株およびMRD-132株を対象に、二次共生に伴う共生藻核ゲノムの進化の共通原理を解明することを目標とした。 H29年度までに検出したTRD-151株およびMRD-132株の共生緑藻由来遺伝子群についてさらに詳細に解析した。その結果、どちらの渦鞭毛藻においてmRNA合成、タンパク質合成、DNA複製に関わる共生緑藻由来タンパク質(ハウスキーピングタンパク質)は、宿主渦鞭毛藻ゲノムよりもNMゲノムにコードされる傾向が強いことが判明した。その一方、細胞内の代謝に関わる共生緑藻由来タンパク質は、宿主渦鞭毛藻ゲノムとNMゲノム双方にコードされていると予想された。これは、渦鞭毛藻細胞が共生緑藻を葉緑体として統合する過程で遺伝子の機能カテゴリー毎に、共生体ゲノムから宿主ゲノムへ転移のしやすさが異なることを示す。NMをもつクロララクニオン藻とクリプト藻においても、宿主ゲノム-共生体ゲノム間で遺伝子転移について、同様の傾向が報告されている。また、TRD-151株およびMRD-132株で検出された共生緑藻由来タンパク質の一部は、宿主ゲノムと共生体ゲノムの両方にコードされていることが判明した。これは2種の渦鞭毛藻において宿主ゲノム-共生体ゲノム間で遺伝子転移が完結していないことを示唆する。
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