進化生物学における一つの常識的な知見として、「自殖集団では有害遺伝子が排除される」というものがある。自殖をすると、劣勢有害遺伝子がホモになって生存力が低下する種子が出現しやすい。そうした種子が死亡することで有害遺伝子が排除されるわけである。ところが現実には、自殖率が高いのに近交弱勢も高い(有害遺伝子が多数保持されている)植物が非常に多い。この矛盾は今日まで、進化生物学における大きな謎とされている。本研究では、モデルを用いて、自殖集団においても劣勢有害遺伝子が排除されないメカニズムを提唱する。 昨年度も今年度に引き続き、以下の数理モデルの解析を進めた。そして以下の解析を解析を行った。数理モデルは、解析的なものとシミュレーションの2つを開発した。解析的なモデルでは、連続した2世代間での遺伝子頻度の変化を見ることを行った。ただしそのため、近交弱勢 の進化は考えないことにした。すなわち、有害遺伝子の除去や新規有害遺伝子の出現の影響は考えないことにした。シミュレーションモデルでは、近交弱勢の進化も取り入れて、長期 に渡る遺伝子頻度の変化をみることにした。 近交弱勢が、花への食害と花の防御に対してどのような影響を与えるのかも解析した。そして、事前防御はほとんど行われなくなるのかどうかをみた。さらに、近交弱勢が、花の蜜分泌に与える影響も解析した。その結果、訪花者による連続訪花を避ける現象に影響をみた。
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