雄と雌の間に見られる配偶子サイズの違い(異型配偶)は、精子競争を通して性淘汰を引き起こすため、生物に形態的・行動的雌雄差が進化する最も根本的な理由となっている。このため異型配偶子接合の進化機構の解明は、性差の進化に関する我々の理解を大きく前進させる意味を持つ。しかし、実際の生物を使ってこの問題に取り組むことは、一般には極めて難しい。その理由は、多くの生物で配偶システムの異型化が進んでいるうえ、遺伝的に均質でサイズの異なる配偶子を入手出来ないからである。我々はヒトエグサ属の海産緑色藻類を用いることによって遺伝的に均質なさまざまなサイズの配偶子を得られることを示してきた。本研究では、特に、配偶子の単為発生に加えて接合子から巨視的な多細胞体が発生するという我々のこれまでの研究から得られた新しい発見に着目してこの課題に包括的に取り組んでいる。令和2年度は、北海道小樽市でエゾヒトエグサを採集し、研究計画に基づいた実験を行った。配偶子嚢サイズのバラつきによって生み出される様々なサイズの配偶子ならびにサイズの異なる配偶子を組み合わせることによって作り出されるサイズの異なる接合子を用いて、「単為発生が起きる確率は、配偶子のサイズに依存し、大きな配偶子ほど接合しなくても単為発生によって生き残りやすい」、「胞子体、配偶体のどちらに単為発生するかはその配偶子のサイズには依存しない」、「接合子からはそのサイズに依存せずストキャスティックに多細胞体が発生する」ことなどを突き止めた。さらに、理論研究を行って接合しなかった配偶子が単為発生する場合の配偶システムの進化をシュミレーションし、現生のアオサ藻綱に見られる大型の配偶子同士の同型配偶の進化的な安定性を説明することに成功した。
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