研究課題/領域番号 |
16H04844
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
高見 泰興 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (60432358)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 交尾器形態 / 種分化 / 性淘汰 / 形質置換 / 形態形成 |
研究実績の概要 |
本研究は,交尾器形態の多様化が種分化を推し進める過程を,マクロとミクロの両面から検証する.特に,①形態の多様化をもたらす淘汰要因,②形態分化が種分化過程におよぼす影響,③形態の多様化の背景にある遺伝発生学的基盤,の3点を明らかにすることを目的とする.材料は,多様な交尾器形態を持ち,種分化研究の進んでいるオオオサムシ類を用いる.形態,行動,系統の知見が蓄積している材料について,計画的な実証研究によるマクロ的視点からのデータと,マイクロCTや次世代シーケンスといった最新の手法によるミクロ的視点からのデータを積み重ねることで,形質分化による種分化機構の多角的,統合的理解を目指す. 交尾器形態の分化をもたらす性淘汰について,イワワキオサムシとマヤサンオサムシを用いた2回交尾実験により,雄間競争に関わる異なる形の性淘汰をそれぞれの種で検出した.この結果を国際昆虫学会議で発表し,現在は論文執筆を進めている. 交尾器形態の分化をもたらす自然淘汰について,マヤサンオサムシの亜種を用いた形質置換の検証を行った.交尾器形態はイワワキオサムシと分布を接する亜種でより長くなる形質置換を示したが,長くなった交尾器の機能を行動実験で検討したところ,交雑を避ける機能を持たないことを明らかにした.よって,形質置換が交尾器形態の分化をもたらす可能性は低いと考えられた. 交尾器形態の分化が種分化に通じる可能性について,マヤサンオサムシ亜種間の交配実験により検討した.交尾器形態の差異が大きな亜種間では精包形成率が低下し,雌が傷つく率が上昇したことから,交尾器形態の分化は種分化に繋がりうることを明らかにした. 交尾器形態の発生過程の解明のため,マヤサンオサムシ,イワワキオサムシ,ドウキョウオサムシの蛹のサンプルを飼育によって収集した.マイクロCT解析のための固定法と染色法の検討のため,予備的解析を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交尾器形態の分化をもたらす淘汰要因の検討については,性淘汰,自然淘汰共に順調に実験データを収集しつつあり,すでに論文発表可能な段階に来ているものもある. 交尾器形態分化に伴う生殖隔離についても,すでに実験データが蓄積しており,2017年度に少量の追加サンプルを得るだけで論文発表できる段階に達する. 交尾器形態の発生過程の解明については,サンプルの処理方法が最適化されつつあると共に,解析に必要な器具やソフトウェアの整備を進め,2017年度以降の本格的な解析に対応できる体制が整いつつある.
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今後の研究の推進方策 |
淘汰要因の解明については,性淘汰の検出については既存データを論文にすることを進めると共に,集団間比較による異なる側面からの検証を進める. 自然淘汰要因の解明については,形質置換を否定するに十分な証拠をさらに積み重ねる.特に,雌交尾器の機能に注目した実験解析を進める. 生殖隔離については,亜種間交配実験の結果を追加データを待って今年度中に論文化する.また,系統樹を用いた種間比較解析をすすめ,異なる側面からの検証を進める. 発生過程の解明については,今年度より本格的にサンプル収集を始め,マイクロCTによる発生段階の記載を進めると共に,遺伝子発現解析に適した段階の特定を目指す.
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