交尾器形態の多様化をもたらす性淘汰: 種特異的な交尾器部位である雄の交尾片と雌の膣盲嚢に,性的対立による拮抗的な淘汰がはたらいていること,それが雌雄交尾器サイズの共進化をもたらしていることを明らかにした.これらの淘汰は,より長い交尾片が雌の卵廃棄を通じて雄の相対的な受精成功を高めうること,より長い膣盲嚢がそれに対抗しうることによって生じていることが示唆された. 形質置換をもたらす自然淘汰:マヤサンオサムシの雌雄交尾器サイズ(交尾片と膣盲嚢)が,イワワキオサムシとの接触集団において増加するという,生殖適形質置換のパターンを検出した.また,StructureとNewHybridsを用いた集団遺伝学的解析より,両種のあいだには頻繁な交雑が生じていることが明らかとなった.よって,検出された交尾器形態の形質置換は,生殖隔離が不完全な種分化途中の種間に生じた,生殖隔離の強化過程による可能性が示唆された. 形態分化が種分化におよぼす影響: マヤサンオサムシにおける交尾器形態の生殖適形質置換により生じた地理的変異が,種内の地理的集団間(亜種間)の生殖隔離をもたらしていることを明らかにした.交尾器サイズの不一致が大きくなるほど,交尾の際の精包受け渡し率は低下した.これは,種間相互作用による種分化仮説(Hoskin et al. 2010)を支持する新たな例であると考えられた. 発生学的基盤: 雄の交尾片と雌の膣盲嚢が,蛹の期間に主に形成されることを明らかにした.また,種間の形態分化は,雄では発生タイミングの差,雌では発生速度の差によって生じていることを明らかにした.これらの知見は,今後の遺伝子発現解析を行ううえで,重要な情報をもたらすものである.
|