研究課題/領域番号 |
16H04845
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岩見 真吾 九州大学, 理学研究院, 准教授 (90518119)
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研究分担者 |
立木 佑弥 首都大学東京, 理学研究科, 助教 (40741799)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 数理モデル / 定量的データ解析 / ウイルス進化 |
研究実績の概要 |
ビッグデータに値する情報として蓄積しつつある病原体の遺伝子配列を利用し、「流行予測」を実現させる。本研究では、バイオインフォマティクス解析を用いて、遺伝子配列データを詳細に解析した。特に、正の選択がインフルエンザウイルスの抗原決定基のどの部分で検出されるのかを詳細に解析した。また、過去40年間に流行したA香港型インフルエンザのHAアミノ酸配列を用いてその変化をMSDで視覚化した。さらに、遺伝子配列データに加えて、赤血球凝集阻止試験等のデータをバイオインフォマティクスの手法により解析し、株間の遺伝的距離および免疫学的距離を定量化した。これらの情報を実装した、進化シミュレータの開発にも着手した。具体的には、A/U/G/Cからなる1047塩基の配列を持つ親株をコンピュータ内で変異させ子孫プールを作り、各子孫株の適応度を宿主集団の免疫状態及び親株との類似性などを規定する要因を計算し、翌年の流行株を選んだ。この操作を繰り返し計算する事でインフルエンザ進化をシミュレートできる。シミュレータから生成した配列データを再びバイオインフォマティクスの手法により解析する事で、実配列データと同様の傾向を再現できているかも確認した。これらの解析を通じてウイルスの進化ルールを一部明らかにできた。また、基礎研究の成果を一般社会に還元するアウトリーチ活動にも注力し、ワークショップの開催やアプリケーションの開発も視野に入れて活動を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
インフルエンザウイルスの進化は抗原決定基(特にA及びB)に蓄積される変異が主な駆動力になっている可能性を見出している。さらに、抗原決定基及び非抗原決定基をコードする配列を別々に準備し、描いた2つの進化系統樹を比較した。その結果、非抗原決定基配列の系統樹であってもいわゆる“インフルエンザの系統樹”のトポロジーを維持することを発見した。興味深いのは、宿主免疫の標的になっていないにも関わらず、非抗原決定基にインフルエンザウイルスの進化の歴史が同様に刻まれている点である。この反直感的な発見に「進化ルール」が内包されている可能性がある。これらの結果は世界初である。
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今後の研究の推進方策 |
開発した手法により計算された流行可能株の候補の中から実際に流行する株を予測する。この「流行予測」を実現するためには、ハイブリッド力学系が持つ各種パラメータの適切な確率分布を推定する必要がある。データ同化の手法を用いて、過去40年間の遺伝子配列の推移と開発した数理モデルによるMCシミュレーションが示す流行株の推移が一致するようなパラメータを探索する。そして、現在までの人口集団に蓄積された集団免疫を計算し、翌年最も流行しそうな株を適応度に基づいて提示する。予測される難点は、力学系が極めて高次元になる点である。計算時間を激減できる本ハイブリッド力学系を活用してもなおその時間が現実的でない場合、自由度可変力学系の考えを基にハイブリッド力学系を再考する。即ち、各seasonにおいて予測に真に必要な次元を担保するように力学系の次元(変数)を変化させていく。また、流行予測の妥当性は年度毎の遺伝子配列データを訓練データとテストデータに分け、予測精度を検証する事で評価できる。
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