研究実績の概要 |
ヒトをヒトたらしめる分子基盤の解明のために,ヒトと類人猿の脳内発現遺伝子のアイソフォームレベルの比較解析を行い,既存の参照ゲノム配列や遺伝子構造モデルに依存しない方法での選択的スプライシングの多様性解析を行うとともに,ヒト特異的新規エキソンの同定とその生物学的意義を解明することを目的とした.
平成28年度と平成29年度に,ヒトとチンパンジーそれぞれ1検体の死後脳8領域(前頭前野背外側部,下前頭回,運動前野,一次視覚野,前帯状皮質,海馬,線条体,小脳)を用いてアイソフォーム解析用ライブラリーの作製,ロングリード型シーケンサー(PacBio社RSII)による完全長cDNA配列決定を行った.また,平成30年度に外群としてゴリラの完全長cDNA配列決定をロングリード型シーケンサー(PacBio社Sequel)で行った.配列データを比較した結果,(1)完全長アイソフォームをそれぞれ12,744個,9,923個同定し,そのうちヒトにおいては2.5%,チンパンジーでは7.6%のアイソフォームが新規アイソフォームであること,(2)相同なアイソフォームを比較した結果,チンパンジーの方が非翻訳領域(UTR)の配列長が長いこと,(3)相同な遺伝子における平均アイソフォーム数がヒトの方が多いこと(ヒト:2.74個,チンパンジー:2.19個),(4)相同な遺伝子において300bp以上(100アミノ酸以上)の長さのエキソンが一方にしか存在していない遺伝子の数がヒトで571遺伝子,チンパンジーで791遺伝子あること,(5)外群としてゴリラで得られた結果を加味すると,ヒトおよびチンパンジー特異的エキソンを1つ以上持つ遺伝子の数がそれぞれ428個,597個存在すること,などを明らかにすることができた.
現在,上記で同定した遺伝子の機能や進化的な意義などに関して考察を加え論文を投稿準備中である.
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