自家不和合性は、雌ずい側因子がS-RNaseであるRNase型が最も進化的起源が古く、様々な分類群に広く分布しているとされている。バラ科においてはサクラ連(オウトウなど)では単一の花粉側因子SFBが自己S-RNaseを認識する「単因子自己認識型」を示すが、興味深いことに我々は、ナシ連(ナシ、リンゴ)では複数の花粉側因子SFBBが非自己のS-RNaseを認識する「多因子非自己認識型」を示すことを見出した(KakuiらPlant J(2011))。だが、これら2タイプは分子レベルでどのように異なり、なぜバラ科に共存しているのかは不明である。本研究では、ナシ連の「多因子非自己認識型」機構に関与する因子の特定と機能解析を進め「単因子自己認識型」との異同の分子基盤と、バラ科におけるこれらの2タイプの進化的関係を解明することを目的とした。 バラ科のSFBBタンパク質は発現量が極めて少ないうえ、大腸菌など様々な発現系でも組換えタンパク質の発現が極めて困難なため、S-RNaseとのタンパク質間相互作用解析はほとんど行われていなかった。本研究でさまざまな発現系および条件の検討を行った結果、組換えSFBBタンパク質を安定的に発現できる実験系の構築に成功した。並行して、タンパク質間相互作用実験に使用可能なツールの開発も行った。今後、これら発現系やツールを活用することで、SFBBとS-RNaseのタンパク質間相互作用の検出と、バラ科の異なる自家不和合性システムの分子基盤解明が望まれる。
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