研究課題/領域番号 |
16H04856
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 薫 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (70183994)
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研究分担者 |
佐々木 和浩 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (70513688) [辞退]
深野 祐也 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (70713535)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 収量・バイオマス / 環境保全型農業 / 枯渇資源 / フィチン酸 |
研究実績の概要 |
1. 種子へのリン転流制御機構の解明:イネコアコレクションを用いたGWA解析から酸性フォスファターゼの関与が示唆された。この遺伝子は転流時の有機リンの分解に関与することが示唆されているため、この遺伝子の欠損が種子リン濃度に影響するかを検討した。Tos変異体2系統のホモ個体を育成し、野生型と種子リン濃度を比較したが、変異体での種子リン濃度低下は認められなかった。 2. 栄養器官でのリン転流制御機構の解明:リン転流に関与するイノシトール高次リン酸化合物には異性体が存在し、2種類の合成酵素VIP1とKCS1により合成される。植物で未同定のKCS1をイネで探索し、酵母KCS1と同じ機能を持つ遺伝子OsKCS1を同定した。同遺伝子のリン転流への影響を明らかにするため、RNAi組換えイネを作出し、ホモ系統を選抜した。 3. リンの吸収・蓄積の制御機構の解明:リン欠応答の調節遺伝子であるOsPHR2の過剰発現体で見られるリン過剰障害(生育不良)が、過剰吸収したリンをフィチン酸の形で液胞内に蓄積させることで回避できるかどうかを、フィチン酸合成の要となる遺伝子OsPGK1、及びフィチン酸の液胞への輸送を担う遺伝子OsMRP13の過剰発現とOsPHR2過剰発現を組合せた様々な組換え体を作出して調査した。その結果、OsPHR2/OsMRP13二重過剰発現体とOsPHR2/OsMRP13/OsPGK1三重過剰発現体においては、リン蓄積量が約1.2倍程度増加したにも関わらず、リン過剰障害が回避されることがわかった。 4. 生育初期のリン欠耐性:実生をリン欠水耕液で育成した場合に、古い葉から新しく展開する葉へリン転流させる能力を、イネコアコレクションを用いて比較したところ、約2.7倍の品種間差が認められた。さらに、GWA解析を行い、このリン欠時のリン転流能に関連するSNPを複数検出することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画の一部で遅れは見られるものの、一方で大きく進展している計画がある。 例えば、「栄養器官でのリン転流制御機構の解明」では、昨年度植物で初めてリン欠乏時のリン転流にイノシトール高次リン酸化合物が関与する可能性を指摘できたが、今年度はこれに加えて、我々が植物で初めて同定したもう一つのイノシトール高次リン酸化合物合成酵素KCS1のリン転流における機能を明らかにする目的で複数のRNAi組換えイネのホモ系統を作出した。今後これらの組換えイネを用いた研究を進めることで、VIP1とKCS1によるリン転流制御の実態が明らかにされる可能性は極めて高いと考えられる。 また、「リンの吸収・蓄積の制御機構の解明」では、リンの吸収およびフィチン酸の合成と蓄積において中心的な役割を担う3種類の遺伝子を特定し、それらの過剰発現体の組合せを検討した結果、過剰に吸収したリンをフィチン酸として液胞に蓄積できるシステムが構築されれば、リン過剰障害を回避でき、リン集積植物を作出できる可能性を指摘できた。これは、植物のリン蓄積制御機構の解明に向けた大きな進展である。 さらに、農業生物資源研究所のイネコアコレクションを用いた「生育初期のリン欠耐性」の研究では、圃場での研究に加えて大規模な水耕栽培実験を実施し、栄養成長期のリン欠乏応答の品種間差を明らかにするとともに、GWA解析から複数の有意なSNPを検出できた。この点も今年度大きく進展した部分である。 以上のことから、全体としては、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 種子(穂)へのリン転流制御機構の解明:イネコアコレクションに含まれる80品種を使って、通常の水田栽培条件での出穂後収穫期までの葉から穂へ転流するリン量を正確に推定した上で、GWA解析から穂へのリン転流に関連するSNPを明らかにする。また、リン十分条件とリン欠条件の畑栽培で育成したイネの出穂後のリン転流の品種間差を明らかにし、栄養成長期間中のリン転流(古葉→新葉)の制御との違いを明らかにする。これにより、リン欠乏で収量やバイオマスが落ちない品種の持つ特性が明らかになると期待される。さらに、イノシトール高次リン酸化合物合成酵素OsVIP1とOsKCS1の組換え体を用いて、種子へのリン転流量やフィチン酸量に及ぼす影響を調査し、栄養成長期だけでなく生殖成長期のリン転流制御においてもイノシトール高次リン酸化合物が機能するのかを明らかにする。 2. 栄養器官でのリン転流制御機構の解明:OsKCS1のRNAi組換え体において、古い葉から新しい葉へのリン転流が影響を受けるかを調査し、栄養器官間のリン転流におけるOsKCS1の役割を明らかにする。 3. リンの吸収・蓄積の制御機構の解明:リンの吸収を制御するOsPHR2、リンの蓄積を制御するOsPGK1とOsMRP13を様々な組合せで過剰発現させた組換え体を通常の土耕栽培で栽培し、種子(穂)に転流するリン量に差が見られるかを明らかにする。これにより、通常の栽培条件下でもリン集積植物としての特性が維持されるかが明らかとなる。 4. 生育初期のリン欠耐性:昨年度GWA解析から明らかになったSNPの近傍の遺伝子にどのような変異が見られるかを調査し、原因遺伝子を同定する。
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